藍生ロゴ 藍生9月 選評と鑑賞  黒田杏子


晩年は誰も孤独か暁蜩

(高知県)浜崎 浜子

 句意は明快。率直にして素直な句である。自問自答しているようなこの一行はしかし、読み手の胸にも素直に響いてくる。大勢の患者に頼られ、子や孫に恵まれ、若者たちに囲まれて句座を重ねる。ぼんやりしている暇もない生活を朗らかに送っている開業の女性医師。そんな人のつぶやき故に一行の存在感はゆるがないのである。



短夜のまだハングルの夢を見ず

(ソウル市)荻野友佑子
 国家公務員の生活は多忙だ。国内転勤も多かったが、ついに勤務先は海外に。幸い、「ソウル俳句会」に参加して、俳句のある生活は却って韓国に移住してのち活性化したかに思える。人生は長いようで短い。仕事や家庭で忙しいときほどほんとうは俳句に打ち込める。「暇になったら・・・」俳句に打ち込んでも気が抜けた句しか詠めない。そんなことはこの作者は、よくわきまえている筈だ。



菖蒲湯のまみどり嬰児浮かびけり
(東京都)岩井 久美惠
 生命感あふれる場面である。いかにもこの作者らしい手法で客観的に詠みあげているところがいい。近ごろ氾濫している愛孫俳句とは一線を画している。しかし、この嬰児の玉のような輝き、菖蒲湯のゆたかさは一句の内外にあふれてやまない。


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