藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


摘草のころでありけり決別す

(東京都)今西美佐子

 このたびの今西さんの五句はこの作者の力量が余すところなく発揮された連作として、すべてを掲載すべきであると判断した。その昔、朝日カルチャーセンター新宿の私の講座にも在籍されたこの人は私の十歳近く年長の受講生であった。その作品に示される人生観、自然観、美意識などに強烈な個性が打ち出されていて、大変に存在感のある人という印象を私は当時抱き、そののちもその印象は変わることがなかった。人生の訣れ、はらからとの別れ、それは誰にも必ず訪れる。今西美佐子という俳人のそのときを詠んだ句にポエジーと強靭な精神性を見て励ましを得た。



さよならをまなざしにこめ花の雲

(大分県)大野 洋子
 この句も永訣を詠んだ作品と思う。花の雲という下五に置かれた季語に、作者がうつむいているのではなく、空を仰いでいる心のたたずまいが感じとれる。出会いがあれば別れがある。哀しみをのり越えてゆく力が作者に湧いてきたように思えることをよろこぶ。



初花や急ぎ老いゆく汝の美し
(東京都)城下 洋二
 夫人の急逝。限られた時日の看取りを尽くし、帰天の妻を見送った夫の句である。国内外で作品の発表を重ねてきた夫人は学生時代以来の友人でアーテイストであった。藍生の事務局長として、深津さんの後をうけて活躍して下さっている最中のこと。五十代で昇天してゆく愛妻をこのように詠み上げる作者の意志と精神的力量に敬服する。


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