藍生ロゴ 藍生6月 選評と鑑賞  黒田杏子


如月やすみれいろ差す天の淵

(愛媛県)高階 斐

 久々に高階斐さんらしい作品に遭えた。この感覚はまさにこの作者のもの。下五を天が淵と書いてもよいと私は考えるが、原句のままの方がいきいきとして現代的なのかも知れない。ともかくすみれ色を含んだ天空を作者は仰いでいる。古希という節目の年に。この作者の蔵する世界が、俳句というストイックな短詩の世界に再び花開いてくる予感をこの一句は示していて嬉しく思う。



爺さまとも婆さまとも見ゆつくしんぼ

(京都府)出井 孝子
 出井孝子の句境は広やかである。近ごろはどんな対象でも鮮やかに詠みこなしてしまうヴァイタリテイを備えてきたように思える。野はらに丈を伸ばしているつくしを良く見ると、おばあさんのようでもあり、またおじいさんのようでもあると、人間が齢を重ねてくると、男女の差はどんどん少なくなってきて、どちらとも言えないようにも見えてくる。じいさんはばあさんで、ばあさんはじいさんなのだ。そのあたりの感じを、土筆に焦点をあてて詠み上げたこれは出井孝子の残る句。



かすみたるいなりのやまもももやまも
(京都府)中村 昭子
 昭子さんはよき齢を重ねている。ゆったりと、やわらかに気息大らかにこういう一行を書きあげる。地名の喚起する力を十二分に生かして朗々と詠じている。一読、ゆったりと、ほのぼのとした世界に誘われてゆく。


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