藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


日脚伸ぶそれぞれの子に本を買ひ

(静岡県)岩上 明美

 幸せな家族の肖像。それぞれの子がそれぞれの本を読むまでに成長、母親である作者はふたりの子の身と心を見守って、家を守り、俳句にも打ち込んでいるのである。伊豆天城山中の山葵田農家に嫁いだ明美さんの暮しの情景があざやかに切りとられて快い。



耳すます春立つ夜の雪の音

(高知県)浜崎 浜子
 立春の夜の雪に耳をすます。高知の雪か、それとも旅先の雪か。いずれにしてもすこやかに日々を送る人の、仕事から解放された折の心のゆとりを感じさてくれる句である。もしもこの人が俳句を作りつづけてこなかったら、果してこのような時間を大切と思ったであろうか。その時間を慈しんだであろうか。



寒の月すっと背筋の伸びにけり
(高知県)西田 泰之
 青年のたたずまいが見えてくる。気持ちのよい句である。寒月というものの美しさ、ゆたかさが、このように何のまぜものもなく、純粋に詠みあげられている、そのような句に出会えることは嬉しい。西田さんの句のひとつの転機を示す作品となるのではないだろうか。


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