藍生ロゴ 藍生1月 選評と鑑賞  黒田杏子


鮭上る月の光の注ぐ川

(岩手県)二階堂光江

 印象鮮明。過不足のない表現によって、一行が構築され、読み手のこころにも月光があふれてくる。盛岡市に住む作者。市内を流れる川が鮭の川であるという恵まれた環境を生かし切って、この佳吟を詠み上げた。街中を鮭が上り、大白鳥が市内の空を啼きわたる盛岡。石割桜があり、青邨先生の墓所のあるみちのく南部の、月の鮭の川。行ってみたい。



僕にカーテンひいて下さい鳥渡る

(石川県)橋本 俊和
 陶芸家の橋本俊和さんと、俳句の話をしたことがある。「人の句を読むのは面白いけれども、自分で句を作るのはむつかしい。というより恥ずかしいですよ。その作者の人間性がまるごとそっくり出てしまうから」。私は「だからあなたのように純粋無垢の方が句を作られたら、すばらしいと思う」と応じたような記憶がある。はじめての投句用紙からこの一句が立ち上がり、私の両眼にとびこみ、胸底を射抜く。



推敲を尽くせぬままに夜の雁
(京都府)中村 昭子
昭子さんの句は、第一句集刊行以後着実にその世界を深めている。あんず句会の座の一隅にこの人は欠席することなく、毎月静かに坐っている。披講のときの名告りの声は、相変わらず初々しい。二十年をとうに越えた句座に、第一回から変わらぬ美しさで出席しておられるこの人の存在と変わらない優雅さ、存在感に私は励まされている。


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