藍生ロゴ藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


哀れ蚊をたたけば形のごとく死ぬ

(東京都)今西 美佐子

 沢山の投句はがきを見ていると、一枚のはがきの中からこの句が顕ち上がってきた。選句をしていて、作品からエネルギーを享受する瞬間である。冷静な句である。冷酷ではない。冷徹な句である。哀れ蚊をたたく人はいくらでもいる。しかし、形のごとく死ぬと言い止めることの出来る作者はいない。今西美佐子さんの実力ここにあり。このような句を投ぜられる作者の存在に励まされ感動する。




低く低くとびて地表に秋の蝶

(東京都)井上 秀子

 この句も単なる写実ではない。秋蝶が低くとび交うということは珍しいことではない。一頭だけの動きと見ることもできる。この句のキーワードは地表に、ここである。地面でも大地でもない。井上さんの作品は常に思索的である。その精神性を一行の詩にこめることはなかなかむつかしい。秋の蝶を詠んでいて、おのずから作者の人生観のようなものが表出された、そんな読後感を得た句だ。




新藁燃やして今年かぎりの農を閉づ
(千葉県)石井喜久枝

 坂東吟行で石井さんのお住まいの近くで句会をした日のことを忘れない。富澤統一郎さんとご一緒にご参加下さった石井さんは、参加者全員にご自分の田で収穫されたお米をおみやげに下さったのであった。さりげない書き方の中に深い想いがこめられている。



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