藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


月の夜の母の脱ぎたる足袋ひろふ

(京都府)植田 珠實

 娘らしい句である。一人娘の珠實さんがそばに居てくれる。歌会の指導を了えて帰宅、ほっとした母は晴着を脱ぎ、足袋も脱いでぼんやりとしている。美しい月の夜。歌人高蘭子の歌の継承者で、俳句作者でもあるこの人にして詠むことの出来た佳吟。母の尊厳を内側と外側、両面から支えている人の一行。



骨壺の母をひきとる菊日和

(神奈川県)大沢 信夫
 遠く離れて棲んでいた母がお骨になってしまった。生前ひきとって同居することのなかった母。その母はいま作者の暮しの空間内に安住している。菊日和の季語のあっせんに、作者の充実感が感じられる。この日より母との対話が重ねられてゆくのだ。



雪虫の湧き昇りくる針葉樹
北海道)山鹿 浩子
 あゝ、浩子さんは北海道に棲みついてしまわれたのだなあと思う。ひなげしのようなほほえみが忘れられないが、いまはすっかり北海道の大地に根を下ろし、家族の大黒柱のような存在になっておられるのだ。雪虫である。その大群が針葉樹の森に湧き昇る。北辺の風土を実感させてくれる句である


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