藍生ロゴ藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


滝包むごと滝の音ひびきけり

(大阪府)名本 沙世

 大きな滝の前で滝の音に聴き入っている女性。じっと聴き入り、じっとまた滝の全容を眺める。この句は作者が眼と耳とそしてこころでつかんだ言葉によって構成されている。滝の句は新旧を問わず無数に詠まれている。名本さんのこの作品はあまたある滝の句の中に立ちまじっていよいよ屹立するだろう。作者の感性がいきいきと一句に投入され、一行詩としての存在感を見事に示している。




炎天や子の影そして吾の影

(東京都)後藤 智子

 若い母親の生命感あふれる、そして幸福な時間。即かず離れず母と幼いそのいとし子は炎天の街をゆく。炎天や、とまず切れているところがよい。子の影そして吾の影ときっちり描写している。智子さんは故村田英尾先生の秘蔵っ子であった。先生はこんな堂々とした、そして情感あふれる句を詠み上げるようになった愛弟子をどれほど誇りに思われ、およろこびになられることだろう。




竿燈を操る神に祈る胸
(秋田県)須田 和子

 秋田竿燈は灯の祭りだ。ねぶたなどは一台の山車に大勢の人間がかかわるが、竿燈は個人。勿論グループを組むけれども基本は個人の技である。重たい竿燈の竿竹を掌や肩や額や胸に載せて繰る。神に祈る胸という表現は巧い。何度か秋田市に出かけて観ているが、この句は秀抜だと思う。



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