藍生ロゴ藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


 五十代半ば春風と思ふ

東京都)安達 潔

 気持ちのひろがる句である。自分自身をこのように表現できる作者の力量もすばらしいが、いま春風のただ中に在ると感じることの出来る五十代というもののあり様もめでたい。その昔は人生五十年と言っていた。日野原重明先生によれば、七十五歳からが老人、それも新老人ということになるのだという。この作者は日野原流新老人の資格を取得するまで、あと二十年あるのだ。それはともかく、さまざまな人生の波をかぶってきて、いま自分を包むものを春風と思う。この断定が読み手にも幸せな、満ち足りた気分を抱かせてくれるのである。




十四年馴染みしかもめ寒の凪

(和歌山県)重田 雅信

 かもめと友達、それも十四年間も。この作者ならではの句である。和歌山太地の海で仕事をしている人であるが、こういういきものとの交流、その上に立った作品は珍しい。かもめの方も安心して作者の身近に寄ってくるのであろう。寒の凪が両者の存在と気持の通い合いをごく自然に伝える舞台として効果的である。




餅を焼き餅食ひてまた餅を焼く
(東京都)半田 良浩

 餅はおいしい。その餅をいくつも食べる。二十代の若さが詠み上げた、餅賛歌である。事実ありのままを素朴に詠んで、いきいきと焼餅の香ばしい匂いも漂ってくる。炭火の勢いも、金網のこげ目もすべてが愉しい。



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