藍生ロゴ藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


 乱れたる風情に菊を生けてをる

(神奈川県)秋山 哲

 花を生けるということは年季の要ることである。とりわけ菊の様な花材を扱うことはむつかしいのではないだろうか。乱菊という言葉、また繚乱という言葉もある。そのような風情に美を求め、感ずる人が身ほとりに居て、共に暮らしてゆける作者は幸せだ。




雪ぼたる厨に立てば夜となり

(三重県)横山 笑子

 雪ぼたる、綿虫が現れ、漂う時季はあっという間に暮れてゆく。つまり短日の頃。この句は日中、来客の応接やらいろいろと多岐にわたる時間を過ごしていた作者が、夕食をととのえるために台所に入ると、もうあたりはすっかり暮れて夜の闇に包まれていたということで、この時期の生活者の想いがよく表出されていると思う。




ぎんなんの実を踏む過去をふりかへる
(兵庫県)藤田 翔青

 翔青さんもこんな句を詠まれるようになったのだと感銘を覚えた。過去をふりかえるという言葉を引き出してくるものに、ぎんなんの実を踏む、というこのあっせんはまことに適切である。翔青さんお場合は、車椅子の車輪でぎんなんを踏みつぶしたのかもしれない。即吟の態を呈しているが、実によく練り上げられた翔青さんの秀句であると思う。



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