藍生ロゴ藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


かまつかの空の閑かな日曜日

(京都府)曲子 治子

 作者の心の落着き、束の間の平安、充足感のようなものが伝わってくる。さりげない句であって、どこにも構えも狙いも認められない。しかし、私達の生活は、すこし大げさに言えば、こう言う静かな日常という宝石のような時間によって支えられているのではないだろうか。何も言わないようにしているのではなく、作者の感謝と祈りのこころが沁みている故に、この閑かな句は輝いているのだ。




天上の秋光を浴ぶ産み月に

(フランクフルト)水巻 津花
 ドイツに暮らす津花さんからクリスマスカードが届いた。「フランクフルトでの生活も来年は三年目。十月には新しい家族も増えて、にぎやかになりました」とあり、赤ん坊の桜子ちゃんの写真も添えてあった。この句、ヨーロッパの古い教会の壁画に描かれた聖母マリアの画像などを想わせられる。天上の秋光という表現が、森の都フランクフルトの秋の光と重なってみずみずしく荘厳だ。



神在の湖のおほきくなりにけり
(島根県)湯町 浩子
 松江に住む作者にとって、湖といえばそれはきまっている。毎日見なれているその湖が大きくなった、と感じたところにこの句の見どころがある。神在だから大きくなったという理屈ではない。一日のうちに太陽や月、星座その他の光を享けて、刻々と表現を変える大きな湖。作者のその瞬間のおどろきが読み手の歓喜を招くのである。


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