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       爆忌くる心の底の爆忌くる (東京都)大岩 旅人木  | 
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| 作者は俳句を作りはじめて数年しか経っていない。その意味ではビギナーであるが、広島に生まれ育ったこの人は七十歳を迎えるころから、被爆の体験を文章にまとめたり、被爆者の会の仕事を通して、さまざまな人々に遭ったりしながら、自身の内に棲みついて消えることのない体験を毎夏俳句に詠み継いでこられた。この一行は作者七十四歳の作品の中の、静かであるけれども、想いの深くこもった作品である。 | |
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       えごの花子の通い路に落つる頃 (神奈川県)岩田 由美 
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| おかあさんとしての由美さんのこころのたたずまいがよく出た句だと思う。とめどもなく散り、道いっぱいにその落花が敷きひろがる。どこもむつかしい言葉はないし、難解な表現もない。しかし心に残る句だ。たとえばこの句、自分の家を作者が離れていて、自宅と学校の間の道すじの光景を想っている句という風にもとれる。そのように鑑賞してみたくもなる句で、この優しさは限りない。 | |
| 生かされず殺されず農梅雨の冷
       (新潟県)山本 浩 
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| 山本さんは小千谷市で田んぼを作っている。雪の深いこの人の居住地を大地震が襲ったことは記憶に新しい。幾多の困難をのり越えて古希を迎えた。奥さんとふたり文字どおり農に生きている。上五・中七のことばは寡黙な山本浩という俳句作者の叫びである。 | |
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