藍生ロゴ藍生8月 選評と鑑賞  黒田杏子


満行や光あふるる種袋

(徳島県)岡村 藍

 この句は高野山の無量光院大広間に於て発表された。満八年という歳月をかけて、じっくりと巡り辿ってきた四国の札所寺。「四国遍路吟行」が昨年十二月に八十八番大窪寺での吟行句会を以て、打上げとなったことを受けて、、この四月二十二日・二十三日の日程を高野山へのお礼詣り勉強句会とした。その句座に輝いていた一句である。満行を祝い、よろこび、その歳月を噛みしめた句はいろいろと詠まれた。岡村さんは徳島市寺町の源久寺のご住職岡村圭真先生の夫人で、すでにお四国は何度も巡っておられる。しかし、「遍路吟行」という長期プログラムに積極的に参加、折々にこのロングランの「行」を支えるための行動と援助を惜しまれなかった。満行やと大きく打って出て、さてそこに何を持ってくるか。種袋に焦点をあて、光あふるるという言葉を山上で授かった。この一句に藍さんの純真なたましいと、ひたむきに句作に打ちこんでこられた人生の時間がきらきらと輝いている。見事な達成である。



火の粉とび朧の高野火の粉とび

(神奈川県)名取 里美
 護摩の火の粉であろう。名取さんも高野に泊まられた。火の粉の美しさ、闇の美しさ。実際に早朝の勤行を聴聞した人でなければ、こういう勢いのある句は詠めない。説明的なところがないのはこの句のよさであるが、何よりも作者自身が心身のよみがえりを実感できたのではないか。



手をつなぐそれだけでよい花満ちて
(京都府)中村 昭子
 こんな句、この作者のほかに誰が詠めるだろう。誰も詠めない。年輪を重ねて、いよいよ恋に身を灼く女性のゆたかな一行である。


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