藍生ロゴ藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


冬薔薇愛は刃物の形して

(山口県)浅原 賢祥

 この作者の句には近年存在感が強まっている。「藍生」の創刊会員であるが、すでに毎日新聞「女のしんぶん楽句塾」スタート時からの投句者でもあった。私はしかし、一度もお目にかかったことはない。その事情は、十五周年記念号のこの人の文章とプロフィールをご覧頂ければご理解頂けると思う。去る一月十五日、東京渋谷のNHKホールに於て開催された「NHK全国俳句大会」の席上、海外を含む全国からの応募作品四万八千句余りの中から、浅原賢祥作品の、

  広島は今も広島雲の峰

が、「NHK全国俳句大賞」に選ばれた。私は特選三句の第一位の推し、高野ムツオ選者も特選に採っておられた。会場に来られない浅原さんの受賞の言葉が特別取材による作者の映像とともに大きく画面に浮かび上ったとき、私は涙があふれてきた。二十数年間、毎月その投句作品に接し、選を重ねてきたこの作者の声とよろこびの表情を、ゆくりなくもその日、私はこの耳と眼にしかと収めた。句縁というものの恩寵を噛みしめながら。



夜のあけるつめたさに似る林檎剥く

(京都府)植田 珠實
 原句はつめたさに似て、であった。そのままでよいのかも知れないが、私の提案である。珠實さんの句の世界は独自のものがある。感性の鋭さであり、言葉の鮮度である。その独自のトーンが、作者の個性として立ち上がるためには、句作への集中、多作多捨という修行がいまこそ必要なのだと思われる。



はるかより声かけてみる冬ざくら
(東京都)今西 美佐子
 こういう句はめったにない。事柄を詠んでいるのではない。作者は自分自身をゆったりと冷静にかついとおしむように眺めている。そういえば、冬ざくらという季語、その存在にこの作者が心を寄せてゆく、そのことはとても自然でふさわしいとも思われる。


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