藍生ロゴ藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


雁渡る白装束の列の上

(岩手県)木村 燿子

 昨年の十二月四日(日)、八年の歳月を重ねてきた「四国遍路吟行」は讃岐の第八十八番医王山大窪寺での吟行会を以て、無事満行を見た。数年前にご子息を亡くされた木村さんは、遍路吟行とは別に、単独遍路を発心され、ご自宅が盛岡市内にあるというハンデを克服、各県別の「一国詣り」を歩きやすい春と秋に重ねられ、この当日に八十八番札所に辿り着かれた。七十代に入られた木村さんは、すっかり若々しくなられ、颯爽としておられた。この句の世界がひろびろとしてすがすがしく、かなしみに満ちていることに感動を覚える。つくりものでない、一行のたましいのかたちがここに立ちあらわれている。尊いことと思う。



神楽師の跳ぶ十月を落葉飛ぶ

(長崎県)森光 梅子
 平戸神楽の句である。この作者らしい切りとり方でダイナミックな作品となっている。平戸という場所の晩秋の空気が臨場感ゆたかに詠み上げられている。作者の心の昂揚が一句の鮮度となって読み手の心をゆさぶる。



火星観に出でては秋を惜しみけり
(埼玉県)寺澤 慶信
 火星の輝きが話題を呼んだ秋であった。何度も屋外に出ては眺めたという感じが過不足なく出ている。ひとりではなく、家族や友人と、あるいは句友などと・・・。星のよく見える高原などに出かけて行った折の作品かも知れない。天体のショー、秋の夜空の美しさ。秋惜しみけりに余韻がこもっている。


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