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一人坐す夕暮早し由紀夫の忌日 (東京都)藤井 正幸 |
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忌日というものは、年に一度必ずめぐってくる。一人の人間のこころにはいく人もの忌日が蔵されている。この作者にとって三島由紀夫の忌日が終生その胸中に棲みついているのだ。1人坐す夕暮早し、この上五から中七にかけてのさりげない表現の裏側に、三島帰天の年齢を越えて、この世にながらえている時間を想う嘆息のようなものが、却って深々とこめられているように感じられる。 |
月澄める群雲はわが胸中に (愛知県)三島 広志
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一片の雲もない天上に澄みわたる月をいただく。働きざかりの作者は精いっぱいの仕事をなしとげて帰宅の途上にあるのか。真澄の月を仰いで、群雲はわが胸中にとつぶやいたとき、作者はある心の安定を得たのではないか。五十歳を越えたこの俊英俳人のみずみずしい詩心。ナイーブな感性に共感する。 |
木枯の鴉はぐれたらしく啼く
(東京都)磯辺 まさる
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さきの三島広志さんが知命、この磯辺まさるさんが還暦ときけば、「藍生」十五周年の実感に重みが加わる心地がする。木枯に鴉が啼いてもどうともならないが、はぐれたらしくと書くところにこの作者の人生観が投影されているようで、そこに味わいがある。 |
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