藍生ロゴ藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


地震の村見廻る後の月明り

(新潟県)山本 浩

 山本さんは小千谷市の人。このたび大変なご苦労をされた。稲作に打ちこまれていることを、私は藍生のみならず、新潟日報俳壇への毎週の投句作品によって、つぶさに学んでいる。長い俳歴を持つ人でもある。この作品の見どころは、見廻るである。農業組合の責任者として、また市民として、自分の家、自分の暮らしだけが念頭にあるのではない。地域全体が山本さんの関心事なのだ。後の月明りも哀しいまでに明るいのだ。山本さんのような句友が居られることを誇りに思う。



月のこし天没地没一瞬裡

(新潟県)大桃 貴美子
 大桃さんは旧湯之谷村の人。そのお住まいは、民家としても貴重な構造をもつ風格のあるもので、絵画作品にも描かれている家だ。天没地没は大桃さんの造語ではない。阪神大地震で被害者となられた故永田耕衣翁がすでに、<白梅や天没地没虚空没>と詠まれている。大桃さんはその作品を知っておられて、このたびの体験でこの一行を成されたと思う。耕衣作品とは別のやさしさ、趣があってよいと思う。月のこし、一瞬裡という言葉はその場に居合せた者だけが使えるのだ。この場合、大桃さんが耕衣作品を学んでおられたという事実もまたすばらしいことだと思う。



秋草のみだれて潮目うつくしき
(東京都)今西 美佐子
 いかにもこの作者らしい、美意識に貫かれた一行である。一句の光景は狭くるしいものではない。大景とも言うべき構図であるが、切りとり方は鮮やかである。


1月へ
3月へ
戻る戻る