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鉦叩夢であったのかもしれぬ (岡山県)酒井 章子 |
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長い人生のある日あるとき、あのことはもしかして夢の中のことだったのだ、と思い到ることがある。思うというより思い知らされるという瞬間がある。鉦叩の声に耳を傾けていて、そんな気持ちにもなってゆく自分を見つめている作者。あのことは、いやすべてのことがと、これまでのこだわりのようなものが消えてゆく、それは予期せぬ時の恵み、神さまの贈りものなのかもしれない。そんな瞬間の訪れを、この一行によって作者とともに体験出来たことをよろこぶ。 |
空見上げ秋だと叫ぶ子どもかな (長野県)竹村 雄次
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事実の強み、愉快な句である。作者は教師である。この子どもは教え子であっても、自分の子どもであってもどちらでもよい。叫んだ瞬間の子どもをまるごと一句にしてしまった作者の若さとすこやかさこそまぶしい。 |
磯山の木々に棲みつく秋の声
(新潟県)磯部 游子
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出雲崎に住む作者が磯山を詠むとき、独特の思いがこもる。佐渡が見える天領の港町。良寛堂のある町。潮風になじんだ木々に秋声を聴きとめて、作者は近づく還暦のときを想う。逝きし友の声をありありと思い起す。 |
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