藍生ロゴ藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


白魚の籠おほかたは十五キロ

(三重県)横山 笑子

 この作者は桑名に住んでいる。毎年正月早々に開始される白魚漁のその現場に通いつづけている。糶場を見たり、白魚を加工するところを訪ねたり、また新鮮な白魚を購めて、さっと炊いたり、白魚汁にしたりと愉しみつつ、白魚の句を詠みつづけている。さらにそれぞれの場面をデジカメで記録してもいる。掲句はそのような活動の積み重ねの中から生まれた。現場に立つということの意味、その恵みによって、省略の効いた存在感のある堂々たる句になっている。



銀杏散る思い出したるやうに散る

(神奈川県)岩田 由美
 一行の内におおきな時空が抱えこまれている。由美さんの由美さんらしい作品とも思える。何かあっと人の眼をひくような句とかと評されることを狙ったりした句とは対極にある世界である。しかし、この句、銀杏で成り立っている。そこのところは大切である。青邨先生の句にあいさつをしているようなニュアンスもあって、実にここちよい。



飾縄一つ針葉樹林帯
(北海道)山鹿 浩子
 こういう句に出合うと、山鹿さんは北海道に住んでいるのだと実感する。その昔、この人は彼と二人、オートバイで「おくのほそ道」を踏破したり、東京例会でにこにこと立ち働いていた娘さんであった。北辺の地に移住して歳月が流れ、このようなすがすがしくも堂々と見事な作品を示される人になっておられることに感動する。


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