藍生ロゴ藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


年重ね賢くならず梅の花

(神奈川県)石川 秀治

 こういう句を作る人はめったにいない。というより、こういう発想をする人はあまりいないし、その想いを句に詠む人もいない。石川秀治さんも年を重ねた。年輪にふさわしい風格を備えられ、皆に敬愛され、佳吟をつぎつぎに発表されている。めでたいことであるし、すてきな生き方を貫かれている。



瓶中に酒炉には灰除夜の鐘

(滋賀県)藤平 寂信
 淡海の湖想庵に独り暮らす寂信翁の越年の句である。瓶中に酒はいかにもこの作者らしいが、炉には灰でこの句、一層魅力が増した。除夜の鐘はどこの寺院のものであろうか。湖の上を渡る除夜の鐘の音が聞こえてくる。



冴返るひと橋の上橋の下
(京都府)出井 孝子
 この人の句は近ごろとみに立派になってきた。そしていかにも出井孝子という人の句になってきている。写実がきいていて、その一句の景のうしろにこの人独特のものの見方が生きている。切れがあり、省略が見事だ。


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