藍生ロゴ藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


腰をおろせば風光る水温む
        
(東京都)坂本 宮尾
 この心地よさはどうだろう。長い年月をかけて取り組んできた杉田久女。その成果が見事な本となって世の中に出た。その充実感と安らぎが、このさりげない句にたっぷりと投影されている。宮尾さんの若い日からの研鑽が遺憾なく発揮された「杉田久女」(富士見書房)。英文学者でもあるこの人は、第1回の藍生賞作家でもあった。俳人坂本宮尾の縦横無尽の活躍がスタートしている。一人でも多くの会員がこの労作を読まれることを希っている。



父に返す母の想ひ出春の月
(東京都)今野 志津子
 父を詠った句、母を詠った句は数え切れない。「藍生」の雑詠投句、新聞、雑誌の投句などに、必ずこの父母詠というものは現れるので、その選に当るものとして、さまざまな句を吟味することになる。この句は、どこにもむつかしいところがない。甘さに傾いたところもない。しかし、心に沁みる。現代的な父母詠と言うべきか。



春の夜の着たり脱いだり歩いたり
(東京都)磯部 まさる
 こういう句も面白い。独特の味わいがある。春の夜のということで成り立っていると思われる。夏の夜、秋の夜、冬の夜いずれもこの春の夜の、のような味わいを醸し出すことは出来ない。そこが俳句の面白さである。



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