|  藍生6月 選評と鑑賞  黒田杏子 | 
| 雪しろに押さるる雛よさかのぼり (長野県)海野 良子 | |
| 雪国に暮らす人々の生活実感を暖かな地方に暮らす人が共有することはむつかしい。雛流しの句である。作者は雪解川に流される雛を見に行ったのであろう。山行などもよくしている人である。その現場に立って臨場感あふれた作品を得た。押さるる雛よのよは無くともよい。しかし、圧倒的な雪しろにもまれて下流にゆかずさかのぼる雛の姿をまのあたりにして、雛よと言いたかったのである。 | |
| 寒木瓜やアルツハイマー女史笑ふ (滋賀県)藤平 寂信 | |
| 淡海のほとりの集合住宅に移り住まれてのちのこの人の作品の中の傑作である。アルツハイマーの媼またはアルツハイマー姿が笑ったのでは句にならない。女史という二字でこの句は俄然生彩を帯びた。ジャーナリストの筆到であり、その批評精神とユーモアは作者ならではのものである。 | |
| かろき音たてて遍路も野の風も (香川県)木村 且与 | |
| 「四国遍路吟行」も六年目に入った。ことし平成十五年三月二日(日)第78番仏光山郷照寺を訪ねた折の作品。まぶしいまでに晴れわたった春の日、ここは八十八か所の中で唯一の時宗の寺であった。佳吟である。 | |
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