藍生ロゴ藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


白鳥の声の降りくるまくらやみ
        
(岩手県)二階堂 光江
 白鳥の水に浮かぶ姿を見たことのある人は多い。その啼き声を聴いたことのある人も大勢いる筈である。しかし、この句の白鳥は空をとんでいるのである。雲に触れてとぶ白鳥の声が地上の作者の頭上に降ってくるのである。白鳥の飛来地では珍しいことではないのだと思う。私も、この作者とともに、吟行をしていて、盛岡市の上空をゆく白鳥の声を浴びた。まくらやみは夜か暁であろう。その声は雲雲の重なり合うあたりから降ってきた。そのとき、白鳥は野生動物であるというあたり前のことに気付いて、感動を深めた。この作品には、みちのく盛岡に暮らす作者ならではの臨場感がこめられており、まくらやみと座五を収めたところにも句柄の大きさを示す力強さがある。風土性のある秀句だ。



二階家の二階の灯る冬木立
(埼玉県)寺澤 慶信
 さりげなく詠まれているが、冬木立の世界が印象深く見えてくる。二階の灯の入ったところ。裸木の林立。言われてみれば、一戸建の二階家という構図も何かしら懐かしさを感じさせてくれるようだ。こころに残る景だ。



太陽と月むかいあふヒヤシンス
(東京都)有住 洋子
 朝の景であろう。ヒヤシンスがそう想わせてくれる。菜の花は月は東に日は西に、で夕景であるが。ヒヤシンスという植物を中心に太陽と月が対面しているという場面は実景かも知れないが、実景を超えた心象風景でもよいと思う。有住洋子という俳人の描き上げた宇宙の景として説得力がある。



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