藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


風鈴に夕風のくる小部屋かな

(神奈川県)石川 秀治

 静かな時間を作者は体験している。静かな時間であり、つつましい時間である。一人で居るのか、人と居るのか、それはどちらでもよい。軒に吊した風鈴に暮方の風がきて涼やかな音を立てる。そのことに作者は心が充たされている。石川秀治という作者の句には作者のこころがまるごと投影されている。



はたはたの流れに落ちし目尻かな

(埼玉県)山口 都茂女
 はたはたの目尻というものに注意を向けたことの無かった私は、この句に出合ってびっくりした。流れに落ちて、はたはたはあわてふためいて、もがいているのであろう。山口都茂女という人は、そのはたはたの目尻に焦点を当てゝ、いのちのかたちをとらえたのである。



蒲の穂の打ち合ふ薄き光かな

(神奈川県)高田 正子

 その光は決して強いものではない。しかし薄き光であるが故に存在感が強い。リアリテイがある。こんな景に出合っても、見過ごしてしまう人が大半である。曇天であるような気もするが、その光はこころに沁みる。



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