藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


七夕や高層ビルに子の眠り

(東京都)磯辺 まさる

 高層ビルの中のある空間に幼子が眠っているという場面は珍しいことではない。近ごろはマンションなどの住居もかなり高い建物となっているし、地上よりかなり高い場所に子供が暮らしていることも多い。しかし、この句の眼目は七夕やの上五のあっせんにある。七夕伝説、天の川、星月夜などイメージは無限に拡大する。幼い、すこやかないのちとこの宇宙の回路、結び目が七夕である。



夕顔に月の光の襞生まれ

(神奈川県)高田 正子
 杉田久女に、「夕顔のひらきかかりて襞ふかく」という代表句がある。この作者の観察力とすさまじい集中力の賜物が情緒にもたれることのない客観的存在感のある一行を立ち上げたのである。正子の句はその先行句を十二分に踏まえた上で詠まれているところが強味である。清新にしてかつ歓喜のこころに裏打ちされた秀吟である。



月の扉をたたきに来たる者あらず

(大分県)長野 なをみ

 この作者の住むあたりは都市化されることもなく、古くからの行事や習俗が残されている、そんな場所であるらしい。いま仲秋の月は高々と昇り、一面が月世界である。誰か訪ねてくれたらと思う。月の友と語り合うべきことはいろいろとあるが・・・・・。



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