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青梅雨の夜を旅してゐたりけり (京都府)出井 孝子 |
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日本語の美しさ、季語の力を十分に生かしきった秀作である。現実の体験をたましいの言葉で再構築した余韻のある一行。青梅雨のとき、夜のみどりはいよいよ深く限りがない。夜行列車に乗ろうが、夜間飛行であろうが、自ら車を運転しようが、それはよい。夜を旅してゐたりけりと、もう一人の自分が作者を眺めているような表現、そのことによって、「旅」というキーワードが人生そのものと重なってくる。嘆息の気もまたよい。 |
くちなしのひかりの中に朽ちてゆく (愛知県)篠田 くみ子
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朽ちてゆくのはくちなしそのものであり、作者自身でもあろう。くちなしの花の白さは独特である。くちなしのひかりをとらえた鋭敏な感覚、絶望感に覆われがちな作者の心境がごく自然に重なり合った作品。 |
石に坐ればほうたるのながれけり (東京都)栗島 宏 |
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まっとうな句である。無欲な句である。故に読み手の眼と心を惹きつける。このごろ、蛍の句が多く詠まれる。蛍の保護が盛んになったことと無関係ではあるまい。しかし、この句、時代を超越して存在する。 |
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