藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


半死死者半生生者水仙忌

(東京都)大矢内 生氣
 水仙忌は宮本常一の忌日、一月三十日である。大矢内生氣という人の生き方を定めることにおいて、宮本常一との出会いが大きな比重を占めているというようなことを、作者本人の口から伝えられた記憶がある。その日のことは忘れない。かの「江戸百景」吟行で大川端を歩き廻り、遊船のゆきかう光景を眺めながら、両国橋の下の石段のようなところで川風に吹かれていた日である。私はこのたび角川選書上下二冊として刊行を見た『証言昭和の俳句』の基本構想を語った。宮本常一を読めと私にすすめてくれたのは若き日の永六輔氏。三十年も昔のことである。人の縁はこの世のものだけではない。近ごろの私はそのように考えるようになっている。今回の作品、とりわけ常一氏との存問の句、見事な作品だ。望ましき生き方ではないか。



寒の星にはなにもかも打ち明けよ

(愛知県)近藤 愛
 「藍生」創刊の頃から何年かのちまで、とびきり若い作者達が活躍していた。岩崎宏介・奥野広樹・近藤愛・大隈優子・石川仁木。奥野君は物理学博士として国際的に活躍、大隈さんは編集者として疾走中。愛さんの復調は嬉しいことである。投稿者としては(毎日新聞)中学時代から知っていたが、いまや二十八歳の公務員。さらに前進されたい。 



片付かぬ部屋よ凍星無数なる

(大阪府)田中 櫻子
 櫻子さんのアドレスは実家のある豊中市になっているが、この人も公務員で、かの九重桜のある常照皇寺にほど近い京北町に勤めの場があり、その地に宿舎があるという。九重桜の定点観測をこの人に私は依頼した。



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