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菊濡らすともなく雨のあがりけり (神奈川県)高田 正子
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静かな句である。なによりも眼と心の張りのよく効いた句である。こういう時間を私達はひとしく体験しているのだが、一句にしてゆくほどの関心を持たない。言われてみて、あっと思う。雨があがっている。濡らすともなく焦点を当てられる物は、植物だけではないだろう。さまざまなものがある筈だ。 この世の曼荼羅の中から、菊花を選びとった、そこにこの作者の面目があり、充足があろう。 |
後の月便りとどきて便りせず
(東京都)糸屋 和恵
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落着いた句である。十三夜の月の光の下に身を置いて、便りとどきて便りせずの日を過ごしている自分を見つめている。ひたすらに若かった日は過ぎて、人生というものの手ざわりを感じはじめている人の句である。 |
今年また十一月をさびしがる
(東京都)栗島 宏
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巧みな句である。年を重ねて、老境というものを身に受け付けない人の句でもある。十一月という日本語を味わい深く、そして重くせずに生かしている。 十一月の句には、 あたたかき十一月もすみにけり 草田男 峠見ゆ十一月のむなしさに 綾子 中村草田男も細見綾子も十一月という日本の風土をシンボライズするこのキーワードを深く耕したのである。 |
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