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座して伏して花野といふも淋しかり
(東京都)坂本 宮尾
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花野の淋しさ、花野と淋しさを詠った人はいないとはいえないが、この句のすばらしさは何といっても、座して伏してにある。人間の存在そのものを表現し得ているし、たとえようのない時代の状況にも切りこんでいる。このような句が風雪に耐えて遺ってゆくのである。作者の境涯性と時代性が二枚合せになった重厚かつ幽艶な句である。 |
湿原の夕映すでに月のみち
(長野県)海野 良子
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鮮烈の句である。若い頃よく山に行っていたが、晩秋の尾瀬ケ原の木道を歩いていたそのときの感覚を再体験させてもらった。こういう句はどこにも添加物がない。夕映すでに月のみち。このみちは道と受取るが、月の世界が満ちひろがってくるとも読める。 |
忘るるまでの遠さを思ふ霧の夜
(大阪府)田中 櫻子
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田中櫻子の世界である。自分のこころ、想ひをしっかりと見つめて一句になし得る力量を備えた若い女性の作品である。二十代の人の句であるからこの言葉に値打がある。同じ一行を五十代の人が書いても陳腐になる。 |
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