千葉県における乳がん検診の現状

川上義弘
千葉県対がん協会検診センター





 千葉県では、平成2年以降女性のがん罹患率(年齢調整・訂正)で乳がんが第1位となり(がん登録事業報告 平成4年統計値、乳:1,136人、胃:942人、子宮:524人)しかも増加を続けている。また乳がん死亡率も増加している(人口10万対死亡率:平成元年8.2が平成6年12.1に漸増)。これらのことは検診事業が現状では十分に機能していないことを示している。千葉県対がん協会では、従来の触診法によって見逃されてきたがんの早期発見を目的としてMMG検診車を導入した。この1年間に3,948人を試験実施し、10例の乳がん(内9例が触診では非触知)が発見された。(要精検率:6.9%、発見率:0.25%)。MMG検診は独自事業であるため経費や運用面でたいへん困難であるが、受診者の反響は良好であった。
キーワード:乳がん罹患率、乳がん死亡率、マンモグラフィー検診車


はじめに
 千葉県における乳がん検診の成果と現状分析を行うにあたって、本稿では以下の3点から検討した。
1)千葉県対がん協会検診センターが行う集団検診の成績(集団検診)
2)千葉県全体の乳がん医療の現状(県の現状)
3)今後の対策(マンモグラフィー検診車)

1.集団検診
 千葉県対がん協会検診センターでは、県全体の乳がん集団検診の約85%を担当している。一次検診は登録された医師80名程度で分担し、二次精検は繰り返しを含め年間約8,000人をセンター内で実施している。年々検診受診者数は増加しているが、ここ数年は横バイ状態である(図1)。平成8年度は59,813人の集団検診を行い、45例の乳がんが発見された(発見率:0.075%)。集団検診での要精検率(5.9%)はここ数年大きな変化はなく、精検受診率(93.2%)も同様であった。一方、センター内で行われる精検時のマンモグラフィー撮影と超音波検査の件数は年々増加しており、平成8年度はそれぞれ施行率98.0%、94.3%であった。
 早期乳がんの発見率(図2)は、平成4年度以後60%を越え、平成8年度は63.3%であった(tnm分類では病期T:75.8%、n0:80.6%)。
 集団検診発見乳がんの予後調査(図3)を行った(対象は平成2年度から6年度までの237例)。結果は検診で発見された乳がん患者の5年健存率は86.0%、5年生存率は95.0%であった。

2.千葉県の現状
 千葉県における女性のがん罹患統計(図4)をがん登録事業報告をもとに集計した。平成2年以後、女性のがん罹患率で乳がんが第1位になり、第2位の胃がんとの差は平成4年にはさらに広がった。一方、乳がんによる死亡率(図5)は年々増加し、平成6年には人口10万対死亡率が12.1と全国レベル11.3(厚生省:成人病のしおり)を超えた。
 県全体の個別・集団を含む乳がん検診の総受診者数を経年的に図6に示した。昭和63年は77,400人(受診率:7.1%)であったが、平成6年は151,161人(受診率:14.7%)にまで増加した。この受診率の増加は県内80市町村で一様ではなく、各々に格差があった。受診率は4.8%から53.6%までばらつきがあり、また受診率30%以上の市町村は11あるのに対し、10%以下は12市町村であった。

3.マンモグラフィー検診車の導入
 従来の視触診法によって見逃されてきた乳がんの早期発見を主目的として、平成8年度よりマンモグラフィー(シーメンス製マンモマート3000)搭載の検診車を導入した。50歳以上を対象に、1年に1回、単独(または触診併用)でオブリーク2枚撮影(時間あたり25人撮影)を行った。同時に問診票もコンピュータ処理ができるように簡略化した。平成9年12月までに3,948人を施行し(要精検率6.9%)、10例の乳がんが発見された(発見率は0.25%)。この10例全例が受診者本人は異常を認めず、9例は触診担当医も異常なしと診断していた。

4.考察
 千葉県対がん協会検診センターでは、昭和51年から乳がん検診を開始し、平成8年度までに561例の乳がんを発見した。ここ数年間のがん発見率・要精検率・精検受診率などはいづれも大きな変動はなく、また各々のデータは全国の平均的レベルと考えている。早期乳がんの発見率に関しては、日本対ガン協会の全国集計(平成8年度 集団検診の実施状況:1,010,015人から797例の乳がんが発見され、うち412例が早期であった)の52.6%に比べ、63.3%と高率であった。これはセンター内で行われるマンモグラフィーや超音波検査などの二次精検の内容が近年レベルアップしたためと考えている。現行の視触診法による検診では、このあたりが限界であり、早期発見率を70%以上にすることは困難と思われる(図2)
 早期発見率60%以上、5年生存率95%であれば、単位施設としての成績は良好と言えるかも知れない。また集団・個別を含めた県全体でも、早期乳がん発見率は67.0%であり好成績と言えるかも知れない(乳がん部会 平成7年度:143例中最終結果不明36例を除く集計)。しかし乳がん死亡率が上昇していることを考えれば(図5)、現行の検診事業が十分機能しているとは言い難い。平成4年にはがん登録により、1,136例の乳がんが県全体で報告されており(図4)、このうち検診からの乳がん総数は89例で、わずか全体の8%にも満たなかった。これらの現状に鑑み、われわれは検診受診率の低迷および検診精度の低さについて再度対策を考え、さらに自己検診指導を含む教育啓発活動の意義について今一度確認する必要があろう。
 その対策の一つとして、平成9年1月から独自事業としてマンモグラフィー検診車を導入した。同年12月までに10例の乳がんを発見し、しかもうち9例は触診で異常なしという所見であったことを考えれば、今後大いに期待がもたれる。しかし経費面での運営はたいへんに困難で、受診者1人あたり約3,000円の必要経費(車両・撮影機代、人件費、原材料費、読影費、その他)がかかり、現在の触診料金2,450円にこの料金を上乗せすることは、県・市町村とも財政的に難しい。この点がマンモグラフィー検診車を導入するにあたってのわれわれの最大の問題点である。
 マンモグラフィー検診によって発見される触知不能がんの診断精度を向上させるため、3次元バイオプシー装置(ステレオテックス)も同時に導入した。また自己検診の指導や啓発活動に関しては、10歳代・20歳代の検診年齢前の若年者にも、乳房そのものの理解が得られるチャンスを作る必要性から教育対策を検討した。さらに術後患者の支援活動も再発予防(3次予防)の視点から大切であるため、多施設の複数医師が参加する患者支援の場をセンター内に常設した。マンモグラフィー検診車ばかりでなく、これらの施策はいずれもまだ一定の成果は得られていないが、それぞれの波及効果も含め検診受診率の向上が今後期待される。

5.まとめ
 千葉県対がん協会の乳がん集団検診の成績および千葉県の乳がん医療の現状について分析し、その対策を検討し報告した。



(文献)
1)日本医学放射線学会乳房撮影ガイドライン委員会:乳房撮影ガイドライン.日本アクセル・シュプリンガー出版、東京、1995、3−9
2) 石田常博:わが国における乳癌集団検診の現状.日本乳癌検診学会誌、2:243−249,1993
3) 日本対ガン協会:平成7年度集団検診の追跡調査.集団検診の実施状況,日本対ガン協会、東京、1996,33−43,95
4) 阿部力哉:乳癌集団検診の基本的な考え.日本乳癌検診学会誌、2:121−128,1993
5) Ohuchi N, Yoshida K, Kimura M, et al : Improved  detection rate of early breast cancer in mass screening  combined with mammography.Jpn J Cancer Res, 84: 807-912, 1993
6) 伊藤末喜、吉田 貢、泉 喜策:乳癌検診効果を上げるためのチェックポイント.日本乳癌検診学会誌、3:183−188,1994


マンモグラフィーによるレントゲン検査に戻る。