今の乳がんの手術方法は?
 一昔前は、乳がんの手術といえば「胸をえぐる」手術と考えられていました。乳房を全部取って、リンパをいっぱい取って、徹底的に手術することが良いことのように思われていました。医師ばかりではなく、一般の人もそのように考えていたのではないでしょうか。

 がんが拡がっていなければ、全部取ることはないんじゃないか?
 そう考えるのが自然です。世界中の専門医師たちが、いろいろ調査し研究した結果、現在のところ「がんが拡がっていなければ、全部取ることはない」という結論に達しています。

 乳房を残したら、再発の可能性があるでしょう?
 がんを取り残したら、再発の可能性があります。取り残さなくても、またできる可能性があります。ならば放射線治療を追加したらどうだろう、ということになり、そういう研究と治療の実績が積み重ねられました。その結果、「部分的な手術と残った乳房への放射線でよい」ということが世界中の専門医の間で合意されました。

 リンパを取ると腕が不自由になるでしょう?
 がんの広がりが、リンパまで及んでいる場合は切除が必要と考えられています。最近の外科技術は、こまかな神経や血管に配慮するようになってきましたので、腕のむくみなどの合併症はかなり少なくなってきました。一方「リンパにまでがんが及んでいなければ、リンパの手術は不要」と考える専門医も増えてきました。これも妥当な考え方です。リンパにまでがんが進んでいるかどうか、の判定が、現在ほぼできるようになりました。CT検査や超音波で手術前に確認したり、色素や放射性物質を使って手術中に確認したりしながら手術を行います。

 近い将来日本でも、リンパを取らず(つまり入院の必要がない)、がん病巣だけを小さく取る(乳房温存)、という手術が一般化するでしょう。

 でも、再発や転移の予防はどうするのか?
 手術の方法自体は、再発や転移の発現にあまり影響しない、と考えられています。実際、再発や転移の可能性が高くなるような手術方法を採る医者は、まあいないんじゃないでしょうか。乳がんの細胞は、診断されたときにすでに全身に散っている、という予測を前提にして、医師は治療計画を組み立てていきます。再発と転移の予防は、主に「薬と術後の生活習慣」ということになります。この分野は、乳腺内科が担当するのですが、日本では乳腺内科医がとっても少ない。糖尿病を外科医が担当しないように、「薬と食事・生活指導」が必要な病気は、長く経過を見ながら、専門内科医が担当する。これもごく自然な考え方なので、アメリカなどでは乳腺内科が充実しているようです。全身に散っているかも知れない乳がん細胞を、やっつけたりコントロールするという治療の概念は、せっかちな考え方からは理解しにくいかも知れません(薬と予防のはなしは、別稿にいたしましょう)

1乳房切除術
  ・胸筋合併乳房切除術(ハルステッドの術式)
   
 一昔前の、いわゆる標準術式です。乳房と胸の筋肉を全部切除する方法です。腕や肩の運動障害やむくみが残る可能性が高い術式で、現在はほとんど行われていません。
  ・胸筋温存乳房切除術(ペティ法、オーチンクロス法)
   
 現在の標準術式と言われるものです。日本では、乳がん患者さんの半数以上がこの手術を受けていると思われます。胸の筋肉が残っているため、腕の運動障害が軽度でしょう。
2乳房温存術
  ・乳房扇状部分切除術
   
 乳房を1/4切除するという方法です。がんが大きい場合、それなりの量を取るので、残した乳房に変形がおこります。手術後に放射線治療を行います。
  ・乳房円状部分切除術
   
 しこりをひとまわり含めて切除する方法です。扇状部分切除に比べて、切除する量が少ないから乳房の変形は少ないようです。その分、乳がん細胞の取り残しの可能性は高くなります。したがって、この術式では放射線治療の重要さがまします。
  ・腫瘤摘出術
   
 しこりのみを切除する方法です。ほとんど乳がん細胞を取り残すことになりますので、術後は放射線治療を行います。
  ・乳腺区域切除術
   
 ごく初期の乳がん(非浸潤がんといいます)では、リンパに転移することはないと考えられるため、病巣のみを切除します。リンパの手術をしないため、腕や肩の運動障害やむくみが起こることはなさそうです。
     (リンパの手術の省略については別稿を参照して下さい)


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