aoilogo2022年7月藍生主宰句
ほたる火の記憶

-昭和二十年栃木県南那須村-

黒田杏子


馬小屋の秣にひかるのは螢
ほうたるの明滅小学一年生
ほうたるのひかり寂かに夜が来る
ほたる火をかがんで見つめ疎開の子
戦争はまだ続きます螢の夜
ほうたるに村の子だれもおどろかず
学校へ片道一里草ぼたる
父の生家のその端にほたる川
土間に積む朝の刈草ほたる這ふ
青田よりぴかぴかほたるぴかぴかと
ほたるくる上り框に機織機
絣織る叔母にゆらりと大螢
土間を抜けほうたるのゆく井戸端へ
裏庭にほたるが好きなつるべ井戸
ほたる火のふたつつるべにひかり合ふ
ほうたるのとび交ふ屋敷神三社
子供らのむぎわらで編むほたる籠
編み上げて母に手渡すほたる籠
川上のほたるしづかに光り増し
屋敷川たちまち螢川まぶし


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