●2020年4月民法改正 賃貸借契約に関する民法の規定の改正~1

 弁護士 久保 実穂子

 

1.賃貸借契約とは
 アパートやマンションを借りられた経験のある方はいらっしゃると思います。
 賃貸借契約とは、一方(賃貸人)がある物をもう一方(賃借人)に使用・収益させ、借りた者(賃借人)が賃料を支払う約束をする契約で、上述のアパートやマンションを借りる際などが身近な契約の例となります。
2.改正された点
 改正された事項は以下のとおりとなり、多岐に亘ります。
 そこで、今回は、この内、身近な問題である①、④についてのみ書かせていただきます。
 ① 賃貸借の意義に関するもの
 ② 短期賃貸借に関するもの
 ③ 賃貸借の存続期間に関するもの
 ④ 賃借物の修繕に関するもの
 ⑤ 賃料の減額に関するもの
 ⑥ 賃借物の滅失などによる契約の解除に関するもの
 ⑦ 転貸借に関するもの
 ⑧ 賃借人の原状回復義務及び収去義務などに関するもの
 ⑨ 賃借人の用法違反による賃貸人の損害賠償請求権に係る消滅時効に関するもの
 ⑩ 敷金に関するもの
 ⑪ 不動産の賃貸借に関するもの
3.① 賃貸借に意義に関するもの
  新しい民法601条「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」 改正前の民法には、賃貸借契約が終了したときに賃借人が借りた物を返すという点について、実は条文には定めがありませんでした。そこで、改正後の民法では、賃貸借契約が終了したときに賃借物を返還することを条文で明確化しています。そのため、改正によって賃貸借契約の内容が実質的に変わるわけではありません。
4.④ 賃借物の修繕に関するもの
 新しい民法606条1項「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
 新しい民法606条2項「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。」
 改正前の民法にも、賃貸人の修繕義務は定められていましたが、賃借人(借りている側)が壊した場合にも修繕しなければならないのか定めはありませんでした。
 しかし、賃借人(借りている側)が壊してしまった場合など、賃借人の責めに帰すべき事由がある場合にまで賃貸人に修繕義務を負わせるのは公平ではありません。そこで、新しい民法では、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった場合には、賃貸人は修繕義務を負わないとしています。
 新しい民法607条の2「賃借物の修繕の必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。 一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。 二 急迫の事情があるとき。」
 賃借物(借りている物)の修繕は、修繕によってその物自体に物理的に変更が加わりますので、その持ち主である賃貸人が行うのが相当です。そのため、改正前民法においては賃貸人の修繕義務は定められていましたが、賃借人(借りている側)が修繕をすることができる場合についての定めはありませんでした。
 しかし、修理を依頼しているのになかなか賃貸人が修理をしてくれない場合や急を要する事態(例えば、台風で屋根が壊れたが、次の台風が接近している場合など)にも、賃借人(借りている側)が修理できないのはなんとも不都合です。
 そこで、改正後の民法では、賃借人(借りている側)が自分で修繕をすることが出来る場合について定め、改正民法607条の2第1号、あるいは2号に該当する場合には、賃借人(借りている側)が借りている物を修繕したとしても、賃貸人から責任追及されることはないことが明確になりました。

2020年02月19日