弁護士 久保 実穂子
離婚の話が夫婦間で出されるようになった場合、当たり前ではありますが、夫婦関係が円満にはいかなくなった事情があることが大勢です。
この場合、仮に夫婦のどちらか一方に原因があったとしても、慰謝料の支払義務が当然に生じるわけではありませんし、また、私自身の経験で申し上げれば、離婚のご相談の半数以上は慰謝料の支払い義務があるとまではいかない事案という印象が強いです。
もっとも、これは慰謝料の支払い義務が生じるであろうと思われるご相談もあり、その典型的な例が、夫婦の一方が不貞行為(一番分かりやすい例は、肉体関係のある不倫)をした場合です。
そこで、今回は、「家庭の法と裁判」という雑誌の2017年7月号から5回に亘って連載された、不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(大塚正之弁護士)での分析結果の一部より、「裁判において認められる慰謝料の額」を紹介させていただきます。
不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(大塚正之弁護士)では、平成27年10月から平成28年9月までの1年間に東京地方裁判所で言い渡された判決の中から、不貞行為慰謝料に関する裁判例123件が分析されています。
この分析結果で、まず目を引くのが、 ◆ 原告の割合は妻が夫より2倍以上多い
◆ 被告については、不貞行為の相手方(いわゆる不倫相手)のみを訴えているのが全体の80%弱、これに不貞行為をした夫あるいは妻と不貞行為の相手方を一緒に訴えるパターンを加えると、90%以上が不貞行為の相手方(いわゆる不倫相手)を被告とするものという結果です。
また、請求額と裁判で認められた認容額についても分析がされており、
◆ 不貞行為の慰謝料として請求される額は多い順に300万円、500万円、400万円
◆ 一方で、最終的に裁判所が認めた不貞行為の慰謝料額は多い順に150~199万円、100~149万円、200~249万円、50~99万円
◆ 分析した裁判の70%が、裁判所に請求額の半分以下でしか不貞行為の慰謝料を認められていない とのことでした。
先程述べましたように、この分析結果は平成27年10月から平成28年9月までの1年間に東京地方裁判所で言い渡された判決の中から、不貞行為慰謝料に関する裁判例123件をピックアップしたものですから、この分析は、今から7年前のものであり、全国的な統計結果でもありません。
しかし、感覚としては2023年現在も同様の傾向では無いかなと思われますし、少なくとも札幌の離婚裁判も原告と被告の割合や裁判所が最終的に認める不貞行為の慰謝料額としては似たような傾向なのではないかなと思われます(これに対し、請求額については、裁判を起こす場合、請求額が高くなればその分、裁判所に納める収入印紙の額も高額になるとったこともあり、200~300万円が札幌では多いような気が致します)。