ウォルター・アダムス,ジェームス・ブロック共編 金田重喜監訳

現代アメリカ産業論

〈第10版〉

発売中


 50年にもわたって、改定し続けてきたアメリカ産業分析の決定版 !最新のデータに基づき全面的に新しく書き直されています。
11章にわたって、その分野の権威とされている研究者が幅広い市場構造について執筆、この本の最後は自由市場経済の公共政策の役割でしめくくられています。
 専門家や学生だけでなく、アメリカ産業の構成や機能について、
もっと学びたいと思っている一般の人にもおすすめです。

内容のポイント

・医療、タバコ、通信そして銀行が追加されました。(9版に対して)
・以前の版からうけついだ事例研究はすべて改訂され、最新のものに
なっています。
・コンピューターはこの版のために完全に新しくなりました。
・各産業は 産業組織に対する 構造―行動―成果アプローチで組み立てられています。
そして、各産業の独自性や重要な国際問題が本文を通じて、検証されています。

第1章 石油
第2章 シガレット
第3章 ビール
第4章 自動車
第5章 コンピューター
第6章 映画
第7章 航空輸送
第8章 銀行
第9章 医療
第10章 通信
第11章 公共政策

参 考

 アダムス氏は,1922年,オーストリアのウィーンに生まれ,1935年にアメリカへ移住された。第2次世界大戦に従軍してノルマンディー上陸を果たし,バルジの闘いに参加した。
 戦後,1947年にイェール大学でPh.D.を取得され,同年,ミシガン州立大学経済学部の教員となられた。司法長官の反トラスト法調査国家委員会メンバー,下院小企業委員会,上院小企業委員会および反トラストと独占に関する上院小委員会経済顧問などを歴任された。反戦運動と公民権運動が大学を揺るがした1969-70年には,ミシガン州立大学学長代行に選出された。アダムス氏は,大学の全構成員を建設的対話に参加させることによって,紛争を劇的に収拾された。学長留任を求める2万人の学生と950人の教員の署名が寄せられたが、氏は「管理者であるよりも教育をしたい」と言って,学部に復帰された。その後,ミシガン州立大学卓越教授に任命され,またアメリカ大学教授協会会長,中西部経済学会会長,社会経済学会会長などを歴任された。1983年には,教育向上のためのカーネギー基金によって,ミシガン州のプロフェッサー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ,1991年には,ローリング・ストーン誌の,アメリカの大学教授ベスト10に掲載された。1990年代には,テキサス州サン・アントニオのトリニティ大学で,ヴァーノン・F・テイラー経済学卓越教授をつとめられた。
 1998年8月,アダムス氏が病に倒れたことがミシガン州立大学のキャンパスに伝わると,彼が半世紀にわたって支援しつづけた楽隊のメンバー200人以上が自宅に駆けつけ,大学応援歌と校歌を演奏した。そして9月8日,氏は膵臓癌のために逝去された。

 アダムス氏は,経済力集中とその弊害に対する鋭い批判者であり,反トラスト法の強力な執行を求め続けた。初期の業績としては,The Structure ofAmerican Industry(ed.)New York,Macmillan,1950,Monopoly in America:Government as Promoter(with H.M.Gray),N.Y.,Macmillan,1955が著名である。The Structure ofAmerican Industryはその後も改訂されて版を重ね,アメリカにおける産業組織論のケース・スタディとして長く読みつがれている。また,両書は日本でも『アメリカの産業構造』(嘉治真三監訳,時事通信社,1957年,第2版からの訳),『アメリカの独占――プロモーターとしての政府――』(陸井三郎訳,至誠堂,1960年)として翻訳出版され,日本における産業論研究の発展に影響を与えた。例えば有澤広巳氏は,『現代日本産業講座ソ』(岩波書店,1959年)の巻頭論文「産業論のはじめに」の冒頭で,『アメリカの産業構造』にE・S・メーソン氏が寄せた序文を引用して,自らの産業論を構築する手がかりとしている。
 アダムス氏は,学術誌にも多数の論文を執筆されたが,そこにも産業分析,独占分析の一時代を築いた論文が含まれている。例えば,1960年代に書かれた"Steel Imports and Vertical Oligopoly Power"(with Joel B.Dirlam),American Economic Review,September 1964,"Big Steel,Invention,and Innovation"(with J.B.Dirlam),Quarterly Journal of Economics,,May1966は,戦後アメリカ鉄鋼業分析の古典的な地位を占めており,その後の研究でもたびたび参照されている。
 1980年代以後,アダムス氏の研究は,産業組織論と反トラスト政策の新しい潮流を強く意識したものになった。氏は,取引費用理論,コンテスタビリティ理論などを根拠に反トラスト政策が緩和され,自由放任の傾向が強まっていくことを批判された。そして,この時期から,大学院でアダムス氏の指導を受けたブロック氏が,共著者として名を連ねるようになった。連名による主要な著書は以下の通りである。The Bigness Complex:Industry, Labor, and Government in the American Economy, N.Y., Pantheon Books, 1986, Dangerous Pursuits: Mergers and Acquisitions in the Age of Wall Street, N.Y., Pantheon Books, 1989, Antitrust Economics on Trial; A Dialogue on the New Laissez- Faire, N. Y.,Pantheon Books, 1989, Adam Smith Goes to Moscow: A Dialogue on Radical Reform, Tobacco War, Southwestern Publishing Company.1998. この他、産業論、政策研究、公共哲学の3分野にわたる選集J. W. Brock and Kenneth G. Elzinga eds., Antitrust, the Market, and the State : The Contributions of Walter Adams, N.Y., M.E. Sharpe, 199lが出版されている。また、The Structure of Amerlcan Industry も版を重ね , 2000年には第10版がPrentice Hallより出版された。こちらも,第9版からブロック氏が共編者となっている。日本では,金田重喜氏が監訳された第6版から第8版までの抄訳が,それぞれ『アメリカの産業構造』(青木書店,1984年),『現代アメリカ産業論 第7版』(創風社,1987年),『現代アメリカ産業論 第8版』(創風社,1991年)として出版された。
 ジェームス・W・ブロック氏は、1981年、アダムス氏の指導のもとでPh.D.を取得され、その後マイアミ大学に職を得、現在、同大学教授・同大学ビル・R・モーキル経済・経営学教授をつとめられている。アダムス氏との連名で上記の著書を発表されたほか、Journal of Economic Issues,Antitrust Bulletin,Review of Industrial Organizationなどに論文を多数執筆されている。
(川端 望訳『アダム・スミス・モスクワへ行く』「訳者あとがき」より)