持株会社制度導入をめぐって



第40回定例会 5月21日 プレスセンター
持株会社制度導入をめぐって        学習院大学教授 南部 鶴彦    純粋持株会社は、日本では独禁法9条で中小企業も含めて禁止されているが、米国で はベンチャーの半ば以上が持株会社である、といったように、先進国では自在に活用さ れており、とくに話題になることもない。米国通信産業のケース・スタディに基づいて 、日本の問題にふれてみたい。 ■公益事業持株会社  米国では、1890年のシャーマン法にはじまる反トラスト法制下で、トラストを避 けて持株会社制が活用された。1920年代の相対的繁栄期に電力、ガスの公益事業会 社が本業とは無縁の分野の他企業を次々に買収、巨大化したが、29年の大恐慌を機に 資産価値の暴落によって本体事業も危うくなったため、35年に公益事業持株会社法で 本業以外への進出を規制された。  一方、電力業界では60年代から、エネルギー源の多元化政策のもとで発送電部門に 競争が導入され、通信の規制緩和が進むとともに96年連邦通信法では電力会社も分離 会社によって通信市場への参入を許可されるようになった。 ■持株会社の機能  持株会社制は、意志決定機構を集中することによって新分野への参入・退出自在な機 動的経営を可能にするが、子会社を自由に切り捨てもする非情な組織でもある。  米国AT&Tの84年分割以来、地域通信の持株会社は、中央集権と分権を繰り返し ており、いまだに結論は出ていない。ベル・アトランティックに合併するナイネックス では子会社のモニタリング・センターの役割をになう陪審員のようなものだが、アメリ テクは、規制・非規制部門に分離したうえワン・ストップ・ショッピングを提供する子 会社と規制部門が競争、経営効率を高めている。またフロンティアは、地域独占を放棄 する代わりに持株会社を設立、M&Aによって州外電話会社やCATV、セルラー、国 際市場に進出、製造部門ももって高成長をとげている。  いずれも持株会社は、少数精鋭の経営陣とスタッフに強大な権限を集中したコントロ ール・タワーであり、合理的な意志決定のアメリカ型経営に活用されている。非効率的 な日本型経営が変わらなければ持株会社を導入しても無意味だろう。 ■独禁法9条問題  公取委の独禁法改正問題研究会の中間報告(95年12月)は、純粋持株会社を■一 定規模以下、■金融業の異領域相互参入、■純粋分社化、■ベンチャー、の4類型につ いて認めることとした。公取委意見によれば、■は総資産15兆円以下と明らかにNT Tから逆算したもののようで、本来ならGDPにしめる売り上げ高あるいは付加価値、 資産総額に占める資産の比率でなければおかしい。  公取委は、とにかく戦前の財閥が復活しなければよいと考えているようだが、それな ら9条はその旨を明記しておけばよい。  NTTについては、持株会社制導入とあわせて、連結納税制度も予定されていたが、 これは簡単なことではない。また譲渡課税の減免についても、大蔵省はNTT限りと明 言すべきだ。いずれも持株会社制導入が先行してのことだが、なぜ持株会社がいいのか 明らかにされていない。 ■同10条(株式保有制限)問題  NTTについては、公取委から分離子会社のドコモの保有株式を手放すよう求めて争 点となっている。一定の巨大化レベルに達すれば当然、10条の適用対象となるが、持 株会社とは無関係の問題だ。  将来の成長部門として育てたものを手放し、他社に買収されるようなことにでもなれ ば持株会社のメリットも失われる。  特定市場でもし独占ということになれば、子会社分離や保有株式手放しなどの規制を すればよい。 ■質疑応答 * 地域系市場 * 企業グループと持株会社の労使交渉 * 研究開発問題  * 日本型経営・戦前財閥型とベンチャー型 * 金融持株会社と不良債権処理、ビッグ・バン * 情報開示と第三者チェック * 欧米ベンチャーの活用事例


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