◇岡山情報ハイウエイの評価


 これまでの記述で、筆者はすでに岡山情報ハイウエイに対して高い評価を与えてきた。県外にいて、実情に触れたのは数回だけ、あとはインターネットなどによる取材だけの知識での断定には、誤りがあるかもしれない。「5年間での投資は34億円」という説明にも、他県の関係者には「実際にはその程度ですんではいない。他の経費にもぐりこませている部分が大きい」と指摘する人もいる。だが、以下の理由で、全国の地域情報化のモデルになると評価したい。

 第一は、事業の開放性だ。県が引いたネットワークを開放するといっても、家庭からじかにハイウエイに接続するわけではない。原則はCATVやインターネットの接続プロバイダー(ISP)が回線を接続し、それによって、これまでは採算性が悪くてインターネット用の回線を引けなかった過疎地域でも高速のインターネットが利用できるようになるのが事業の狙いだ。しかし接続はこれらの業者に限るのではなく、県民サービスの向上や地域の活性化に役立つような場合には直接接続も認めることとし、現在、17の事業者や団体が接続している。しかもその利用については、「日常生活や医療・福祉、教育・文化ばかりでなく産業など幅広い分野でご利用いただくため、

(1)法律に違反するような利用、
(2)道徳や秩序を乱すような利用、
(3)その他、情報ハイウェイの運用を妨げるような悪質な利用

 の3点を禁止事項とし、それ以外に用途制限を一切設けないこととしました」というのだ。

 第二の長所は、96年度から98年度にかけての3年間、県内外の団体・企業・個人など約300者に呼びかけて「岡山県高度情報化実験推進協議会」を作り、情報ハイウエイを活用するにはどうすれば良いか、様々な「モデル実験」を行ったことだ。情報化は、80年代に東京の武蔵野・三鷹地区で行われたINS(高度情報化システム)実験が「一体、何を、するんだろう」だと言われて以来、その効果が分かりにくいのが常だった。岡山情報ハイウエイも、本格運用に入った今年になってもまだ、「ハイウエイは作っても何に使えるのか」と、冷淡に眺めている人が多いのは事実だ。県庁などを取材している新聞記者でも、同じようにクールな受け止め方が多いようだ。

 しかし、毎年数十の活用実験を繰り返すことによって、一部にではあっても情報化への関心が高まり、インターネットに他の県よりは早くなじんでその活用への意欲が生まれたことは、地域の今後にとって、大きな意味を持つだろう。
 例えば、98年に話題になったインターネット冷蔵庫がある。これは岡山市に研究所を持つブイシンク社が、情報ハイウエイ活用モデル実験の一環として開発したものだ。 また同県では、県立の学校79校全部が98年10月、インターネットに接続した。他の都道府県に一歩先駆けたということが出来、どの学校もそれぞれホームページを開設している。

 第三は「情報化に熱心な先進県だ」という評価を、情報化政策に取り組む全国の関係者から得たことである。郵政省は98年11月の緊急経済対策の一環として、研究開発用ギガビットネットワークを利用した研究開発を進めることになったが、このネットワークの交換施設と研究施設が、中国地方では岡山に置かれることになった。2.4Gbpsという、超高速の光ファイバー網を日本列島を縦断して敷設し、これを研究機関や企業に開放して最先端の研究開発を進めようというものだが、つくば(筑波)、けいはんな(京阪奈)、北九州の研究開発施設では大型コンピューターを使って超高速回線のネットワーク技術そのものや応用研究が行われるのに対して、岡山では超高速回線から県の情報ハイウエイを経由して市町村役場やCATV局、家庭や事業所を結び、光通信技術の研究やテレビ会議の実験が行われる。

 いわば中国地方に一ヵ所だけの、情報の高速道路のインターチェンジが置かれることになったのは、岡山が情報ハイウエイで先進県としての評価を得ていた結果だが、これによって岡山情報ハイウエイから県下の30の施設への光ファイバーによる接続が、国の実験として行われることになった。情報ハイウエイが、国費によって一挙に充実することになったわけだ。情報化時代のインフラストラクチャー整備に、他地域との競争で一歩先んじることになったといえよう。

 第四に、県の行政が県民に開かれたものになったことがある。県のホームページには、まず「県民と行政との情報共有の実現」がうたわれ、「私たちが目指しているのは、物理的な距離や空間・時間にとらわれず、県民が平等に情報共有・情報交換を行う場の提供です」と続く。さらに、「インターネットを流れる情報は増え続けています。その一方であふれる情報の中から。"あなた"が必要とする情報を収集するサービスが生まれるでしょう。それは提供者(企業・地域ボランティアなど)も、内容(身近な生活、ビジネスの飛躍)もさまざまで、"あなた"を中心として、インターネットの活用を助けるものでしょう。そういう世界を想定して、私たちは「行政」というテーマでどんなサービスが提供できるかを考えました」というのだ。

 そこで必要な時に、必要な行政情報を入手することができる「オンデマンド行政」を標榜し、全部の課や室がホームページを開いて、取り組んでいる仕事の内容を説明している。知りたい内容を自由語で検索したり、組織から選んだりと、検索の方法もよく考えられている。他の自治体のホームページと比べて相当に充実した内容で、行政を県民に開かれたものにするのに役立っているといえよう。
以上、地域情報化への取り組みとしての岡山情報ハイウエイの優れた点を評価したが、無論、物足りない点も多い。

 例えばモデル実験の成功例として県情報政策課があげた一つに県北の過疎地、英田郡東粟倉村と同村の現代玩具博物館が開いた「国際おもちゃコンテスト」がある。インターネットを通じて宣伝し、参加を呼びかけたところ、世界各国から96年度は96件(国内72、海外24)、97年度は127件(国内84、海外43)の応募があり、国際色豊かな催しを開くことが出来た。作品は東京、大阪、広島での巡回展示もし、大いに盛り上がった。ただし、その後どうなったのか、インターネットで捜しても、一向に見つからない。どうやら根付かせるところまではいかなかったようである。

 ホームページによる行政情報の公開にしても、都合の良い情報だけしか掲載されておらず、まだまだ宣伝の域を出ていない、という見方も出来る。例えば「情報ハイウエイ」の説明はていねいにされているのだが、どれだけコストがかかっているのかといった予算や決算はまったく触れられていない。「県民と行政との情報共有の実現」は、まだ途上にあるといえよう。


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