マンモトームを使用した
ステレオガイド下乳房組織生検

乳がん検診センターにおけるマンモトームの使用経験

橋本 秀行1) 4)、宮澤 幸正5)、鈴木 正人4)、川上 義弘6)、浦島 哲郎1)
桑原 竹一郎
2)、岩元 興人3)、関 喜隆3)

1)千葉県対がん協会がん検診センター 2)同病理部 3)同検診部
4)千葉大学第一外科 5)同第二外科
6)川上診療所

はじめに

 乳がんの死亡率や罹患率は年々上昇しており、それに伴い早期発見・早期治療に有効な乳がん検診がますます期待される。しかし、厚生省研究班(久道班)は、従来から行われている視触診のみによる検診では、生存率から見て有効性を示す根拠は少なく、さらに、マンモグラフィ(MMG)導入に関して早急な対応が必要であると報告している。その後、日本乳癌検診学会や厚生省研究班(大内班)は、マンモグラフィ併用検診のガイドラインを提示し、この方法による乳がん検診を推奨している。

 当検診センターでは、平成8年度よりマンモグラフィを導入した乳がん検診を開始し、受診者も年々増加している。マンモグラフィ検診で要精検となる所見の多くは、微細石灰化像であり、その後の精密検査での対応も非常に重要となってきている。当施設では、平成11年9月より、ステレオガイド下吸引式乳房組織生検装置(マンモトーム®)を導入して、微細石灰化病変に対する精密検査を積極的に行っている。

 今回は、千葉県における乳がん検診の現況と併せて、実際にわれわれが行っているマンモトームの方法や確実に石灰化病変を採取するための工夫、さらに今後の課題や展望について報告する。

千葉県における乳がん検診の現況

 平成10年度の千葉県における乳がん検診の現況と千葉県対がん協会がん検診センターの実績を表1に示す。当検診センターでは、千葉県80市町村中、48市町村に対して乳がん検診を行っており、受診者数56,714人、千葉県全受診者の約30%を担当している1,2)。その中で、平成8年度より、50歳以上の受診者を対象として、マンモグラフィを搭載した検診車を導入して併用検診を開始した。平成8年度は、試行期間であったが、平成9年度受診者数4,755人、平成10年度8,629人、平成11年度15,142人(平成12年3月10日現在)となっており、今後も受診者の増加が見込まれる。乳がん発見率では従来からの視触診検診と比べて高くなっており、平成10年度は、0.29%(同年の視触診のみでは0.10%)であった。表2にこれまでのマンモグラフィ検診の実績を示したが、要精検率が若干高く、今後の精度管理に期待したいところである。

 平成10年度までにマンモグラフィ検診で見つかった乳がん患者は41人、そのうち68.3%(28/41)に病変と一致した微細石灰化像を認めており、触知不能である石灰化像に対しての正確な診断が求められている。マンモトームを使用した組織生検は、手術に比べ患者に対しての侵襲が少なく、正確に石灰化病変を採取でき、検査時間も短くて済むという利点があり、当検診センターでは、積極的に施行している。

マンモトーム症例

 当センターでは、平成11年9月よりステレオガイド下吸引式乳房組織生検装置(マンモトーム)を導入し、微細石灰化に対して組織生検を行っている。これまで68例の症例に対して(平成12年2月現在)マンモトームを施行した。その内訳は、マンモグラフィ検診からの症例:30例、視触診検診で異常を指摘され、精密検査のマンモグラフィで微細石灰化像を指摘された症例:14例、以前(1年以上)からの経過観察症例:17例、乳房に関しての主訴があって、直接外来を受診した症例:2例、他院からのマンモトーム依頼症例:5例である。症例の内訳と病理診断の結果を表3に示す。病理診断では、非浸潤性乳管癌:17例、浸潤性乳管癌:2例、乳腺症:45例、線維腺腫:2例、異型乳管過形成(atypical ductal hyperplasia: ADH):2例であった。今まで経験した68症例中、19例に悪性の所見を認め(27.9%)、1年以上の経過観察者の中にも乳癌症例を認めた。

吸引式組織生検装置(マンモトーム)

 当検診センターで使用しているマンモトーム装置を紹介する(図1)。乳房撮影装置としてLORAD M-IV、それにLORADデジタルスポット撮影装置(DSM)とマンモトームを固定するためのStereoLoc IIとを組み合わせて使用している。患者の体位は、座位(Up-Right Position)で行っているが、我々の経験では、患者のストレス等を考慮すると腹臥位(Prone Position type)の方が良いと考えている。しかし、当検診センターでは、検診の精検施設として、通常のマンモグラフィ撮影も必要であり、共用できる装置としてこのタイプを使用している。

方法

 我々が通常、行っているマンモトームによる組織生検の方法と石灰化病変を確実に採取するための工夫について述べる。体位は、前項で記したように座位(Up-Right Position)の状態で、StereoLoc IIの圧迫板の中央(Biopsy Window)に目標とする石灰化がくるようにしっかりと乳房を固定する(図2a)。この時、患者の座り具合等の訴えをよく聞き、できるだけ良い状態で始めることが肝要と考えている。もし、患者の訴えが解決されない状態で始めると、ストレスのため患者が動いてしまい、目標の石灰化病変が採取できない要因となる可能性があるからである。固定完了後、単純撮影(Scout撮影)を行い、目的とする石灰化病変がWindowの中央にあるかを確認する(図2b)。もし、目標がWindowの端に寄っているようなら、できるだけ中央になるように修正した方が良いと考えている。それは、後述のステレオ撮影において、マンモトーム針と石灰化病変の位置関係が明らかとなり、誤差も少なくなるからである。

 Scout撮影で位置が決まると、次にステレオ撮影に移る。ニードル進入方向(0度)から±15度づつX線管ヘッド(管球)を振り、2方向からステレオ撮影を行う。Scoutの際も同じであるが、画像は、全てデジタル画像であり、乳腺組織と重なって石灰化像が解りづらい時には、Window / Levelボタンを使用してコントラストや輝度を調整する。この状態からコンピューターのディスプレイを見ながら、左右の2画面で目標とする同じ病変を選択する。この時、再度、選んだターゲットが左右の画面で同じものなのかを確認する必要がある。これまでに、多数の石灰化を認める症例で、同じ病変を選択する上で苦慮した症例を何度か経験した。また、目的とするターゲットは一つで十分であるが、この後の局所麻酔や患者の体動により目標が動いてしまう可能性もあるので、複数のターゲットを設定すれば、病変のずれが局所的なものなのか、それとも体動によるものなのかを判断できる(図2c)

 刺入予定部の皮膚を消毒し、石灰化病変のある深さまで(Z軸方向)の麻酔を十分に行う。そして、再度、ステレオ撮影を行った後、最終的なターゲットを設定している。マンモトーム導入当初は、局所麻酔後の撮影は行わず、そのままマンモトーム針を挿入していたが、麻酔後に目標がかなりずれてしまうことが判明し、この方法を採るようになった。われわれの経験では、平均で約1.5mm、最大で5mm目標が動いていることがあった。

 最後のステレオ撮影で最終的な目標の位置が決定する。この時、われわれは、確実に12時方向(マンモトームの開口部が上を向いた状態)で石灰化病変を採取するために、刺入位置を2から3mm乳頭方向(図2cの下方)にずらしている。この方法を用いると、マンモトーム針と石灰化病変との位置関係がよくわかり、針との重なりによって、病変が隠れてしまうこともなくなる。

 メスで数mm皮切を入れた後、マンモトーム針を刺入、再度、ステレオ撮影を行い、石灰化病変との位置関係を把握する(pre-fireの状態)(図2d)。これで確実に刺入されていると判断できれば、マンモトームのバイオプシー・ガンを発射(ファイヤー)させる(post-fireの状態)(図2e)。もし、目標の位置から離れている可能性があるときには、前のpre-fireの状態で修正をする必要がある。マンモトームは、小さな創で生検ができるという利点があるので、基本的には、そのままの皮切を使い、刺入方向のみの変更が良いと考えている。

 ポスト・ファイヤー(post-fire)のステレオ撮影後、マンモトーム針と石灰化病変との位置関係を検討し、針のどちら側(上下左右)に病変が存在しているのかを判断し、組織を採取する。この時、われわれは、できるだけ大きな組織を採取するために、次のようなことを心がけている。まず組織を切除する際、病理診断の妨げとなる細切れの標本を少なくするために、カッターノブをできるだけゆっくりと回している。また、われわれの施設では、座位(Up-Right Position)で検査を行っているため、Prone Positionと比べ、組織回収時に組織の重さが原因で切れやすくなっている。これを解消するために、回収時にバックのみの吸引をかけて取り出している。このような工夫をすることによって、採取時の組織の状態は非常に良くなっている(図2f)

 組織採取後、レントゲンにて石灰化の有無を確認するが、このような操作によって標本が乾いてしまう可能性もあるため、十分に留意する必要があると考えている。最後に、マンモトーム針を抜去し、組織採取後のステレオ撮影を行っている。このステレオ撮影の目的は、目標とした石灰化病変が確実に採取できたかを確認するためである。われわれは、毎週、カンファレンスを開き、目的の石灰化が確実に採取できたか、また、何か問題点がなかったか、医師のみならずその検査に携わるレントゲン技師、看護婦も出席して検討している。これにより多方面からの意見を聞くことができ、とても有用であると考えている。

症例

 これまで(平成12年2月現在)当施設においてマンモトーム68症例を経験した。その中から症例を供覧する。

症例1(図3)

44歳、女性。平成11年度の検診(視触診)で乳腺症を指摘され、精検目的で当検診センター受診。受診時、腫瘤を触知せず、マンモグラフィにて左乳房に微細円形ではあるが、線状に配列した微細石灰化像4,5,6)を認め、マンモトームを施行した(図2a−2f)。病理診断では、非浸潤性乳管癌であった。この症例のように自覚症状もなく、マンモグラフィで偶然見つかる症例も少なくない。

症例2(図4)、症例3(図5)

症例2,3は、それぞれ68歳、51歳、女性。平成11年度のマンモグラフィ検診にて微細石灰化像を指摘され、精検目的で当検診センター受診。症例2は、マンモグラフィにて右C領域に区域性の大小不同で多形性の微細石灰化像を認め、症例3は、右C領域に円形や淡く不明瞭な微細石灰化の集簇像を認めた。マンモトームを施行し、病理診断では、両症例とも非浸潤性乳管癌であった。

症例4(図6)

50歳、女性。平成11年度のマンモグラフィ検診で異常を指摘され、当検診センター受診。昨年までは、50歳未満であったため視触診検診を受けていたが、これまで異常を指摘されたことはなかった。マンモグラフィにて左乳房に集簇した微細石灰化像を認め、形状は、多形性で淡く不明瞭なものも認められた。この症例もマンモトームを施行し、非浸潤性乳管癌の病理診断を得た。

症例5(図7)

39歳、女性。平成11年度の検診(視触診検診)で異常(両側乳房の硬結)を指摘され、当検診センター受診となった。この症例では、主に円形の微細石灰化像で、数も少なく、線状の分枝状といった悪性を示唆する所見も少なかったが病理診断では、非浸潤性乳管癌であった。このマンモトームによる生検は、以前のopen biopsyと比べ患者への侵襲が少なく、この症例もマンモトームの適応となった。

今後の課題と展望

 厚生省や日本乳癌検診学会がマンモグラフィ検診を推奨している事や受診者の増加等を考慮すると、今後、微細石灰化に対する精査がますます重要となってくると思われる。当施設は、がん検診センターであり、われわれは、この吸引式組織生検(マンモトーム)を精密検査法の1つとして位置づけをしている。

 マンモグラフィ検診を実施する上で、精度管理というものが非常に重要であり、条件の良い写真を撮影し、正確に読影することが求められている。しかし、いくら条件の良い写真を正確に読影できても、その後の精密検査の体制が十分でないと、精度管理、さらにはマンモグラフィ検診の意味すら薄らいでしまう可能性もある。特に微細石灰化像は、触知不能であり、実際の臨床では、前項の症例5のように画像だけでは正確な診断が難しいことも少なくない。マンモトームを導入する以前は、ステレオガイド下にフックワイヤーを挿入した生検または通常のCore Needle Biopsyを施行してきた。前者は、広範に石灰化病変を切除できるが、切開創が大きくなり、患者の苦痛も少なくない。後者においては、切開創は、マンモトームと同様に小さくて済むが、複数の組織を採取する際には、何度も刺入・切除を繰り返さなければならず、正確に石灰化病変を採取するには、手技的にも非常に難しいことが多い。その点、この吸引式組織生検(マンモトーム)は、皮膚切開創も小さくて済み、さらに一度の穿刺で複数の組織を採取でき、一方向のみならず周囲360度方向の組織を採取できるという点で非常に優れていると考えられる。しかし、その反面で、検討しなければならない課題も残されていると思われる。まず、コストの面でマンモトーム針等の材料費は、現在のところ保険の適応が通っていないため、患者の負担が非常に大きくなっている。この点は、今後、改善が望まれるところである。手技的な面では、マンモトーム針の開口部が大きいため、欧米人と比べ日本人のように比較的乳房の小さい患者には、不向きな時がある。さらに、検査体位(座位:Up-Right Position)に起因すると思われるが、大きなレントゲン装置やマンモトームなどの機材が目の前にあり、患者は、かなりストレスを感じているようである。これに対して、当施設では、検査室に音楽を流し、看護婦は検査中も患者とのコミュニケーションを絶やさず、患者の訴えを見逃さないように心がけている。最近では、患者に3Dのバーチャル・グラスを装着してもらい、検査中のビデオ鑑賞なども考えている。

 このように、マンモトームは、患者への侵襲が比較的少なく、皮膚切開創も小さく、確実に石灰化病変を採取できるため、必要性がさらに増してくると考えられる。しかし、一方で解決しなければならない課題もあり、今後、検討が望まれるところである。また、この検査法は、医師だけでなく、この検査に携わるレントゲン技師、看護婦等の協力は、絶対に必要であり、全Staffによるdiscussionは、必ず行うべきであると考えている。

まとめ

 これまで千葉県対がん協会がん検診センターでは、68例の吸引式組織生検・マンモトーム症例を経験し、石灰化病変を確実に採取するための方法や工夫を報告した。マンモグラフィ検診を行う上で精密検査における石灰化病変への対応は、今後、ますます重要になると予想され、患者への侵襲が少なく、十分な検体を採取できるマンモトームは、有用な方法であると考えられる。

文献

1) 千葉県衛生部保健予防課編:がん検診による精密検査結果評価事業, 1999.
2) 千葉県対がん協会編:千葉県対がん協会年報(平成10年度実績), 2000.
3) マンモグラフィガイドライン委員会編:マンモグラフィガイドライン,1999.
4) 岡崎正敏・他. いわゆる触知不能乳癌の乳房X線像による検討.臨床外科 38:1357-1362, 1983.
5) Lafontan BD, Daures JP, Salicru B, et al. Isolated clustered microcalcifications: diagnostic value of mammography-series of 400 cases with surgical verification. Radiology 190:479-483, 1994.
6) 岩瀬拓士、吉本賢隆、渡辺 進・他.非触知石灰化病変の診断―石灰化の形態とその病理組織像より―.乳癌の臨床 9:393-402, 1994.

 


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