音質レポート
使用機材
トランスポート:CEC/TL−5100.Super
DAC:AIRBOW/DAC−1A
AMP:AIRBOW/TYPE1
このスピーカーには正直言って驚きました。一体どこに? その音の精密さにです。定位感=広がり感・驚くべき解像度・各ユニットの帯域バランスと位相の整合性。パッシブスピーカーでここまでの精密さを実現できるとは、ちょっとしたカルチャーショックでした。さすが、プロの手腕。
私が自作を始め、最終的にAIROBOWというブランドを樹立するにいたったのは、「信頼できる製品がなかった」事が一番大きな理由ですが、同時に「自分で試してみなければ本当のことは解らない」、お客様の信頼に応える製品のテストをするためには、どうしてもすべてを試しておく必要があると感じたからです。そういう自作というプロセスを通じ、原音と再生音=オーディオとの関わりについて深く知識を得たことは、「音と音楽」のページに掲載させていただきました。
巷の風評や雑誌などでよいと言われるさまざまな方式をテストして感じたのは、「オーディオにおける真の新技術」などほとんど存在しないのではないだろうかという疑問です。○○方式などと呼ばれる技術は、そのほとんどがすでにテストされ文献となっているのです。
ラジオ技術やMJ誌、さまざまなカタログなどで「○○方式」と呼ばれている技術もそこからヒントを得たか、技術者の勉強不足で自分が初めてだと思いこんでいるか、そのどちらかの場合が多いのです。そして、さらに良くないことに「彼等はある程度の売名が終わると、そそくさと次の売名行為に手を染めてしまう」のです。目先の変化にとらわれず本質を追究する姿勢、すなわち「ひとつの技術を徹底的に追及する姿勢」なくしては「真の技術の進歩」などあり得ないはずです。
しかし、PMCのモニタースピーカーに投入されている技術・テクニックはとうてい一朝一夕には、まねなどできそうにない高度なノウハウと時間によって培われたものであることは「その再生音」が物語っています。私が、現時点のレベルでは作れない唯一のスピーカーであるかも知れません。そういう、「真の技術」になら「納得できる限りのお金を払っても構わない」というのも私の姿勢ですが、PMCは私の心を動かした数少ない製品のひとつとなりました。
つまらない前置きはこれくらいにして、音質レポートを続けましょう。
IB1Sの最も大きな特徴は、「その音の精密さ」にありますが、これはMB1とまったく同等の資質を持つとお考えいただいて差し支えありません。実際にはどのようにきこえるかと言えば、「箱鳴きが少なくモニターとして精度の高いB&W/802S3」ですら、このスピーカを聴いた直後に同じソフトを再生すれば、「音の緩い普通のスピーカー」にしか聞こえないほどなのです。
今まで聴いたどのスピーカーよりも「音の立ち上がりが早く、切れ込みが鋭い音」です。しかし、ユニットの動きとエンクロージャーの共鳴音(箱鳴き)が厳しくチェックされているため、「音に不要な輪郭が一切つかない」のです。
この不要な色づけのなさは「タイタニック・サウンドトラックの15曲目」を再生したときに、曲の流れと共に音像空間が大きくなったり小さくなったりしているのが完璧に再現される事で解りますし、「ショーム?」らしき、リードパイプを一生懸命プレーヤーがコントロールしている様子が克明に描き出されます。802S3も尊敬に値すべき素晴らしいスピーカーですが、PMCほど「そこまで細かく」は再生しきれません。
低音も「カタログデーターの25Hz」は紛れもない有効範囲です。ATC/SCM−100SLと比較してもIB1Sの低域再現能力が優っています。
4344MK2と比べて同等のレンジがありますが、同じソフトを4344MK2で再生しても、「低音はボーボー」という音にしか聞こえない部分も、IB1Sなら「ブッブッブッ」という断続音に再生されます。これは、低音のユニットとエンクロージャーの共鳴(箱鳴き)が完全にコントロールされて初めて得られる低音です。素早く動き、無駄な音を出さず素早く止まる。その簡単なことを、これほど精密に実現した手腕は凄いの一語に尽きるのです。
ネットワークは通常あまり使われない24dB/octが使われています。その長所として、「精密な整合性を持って各帯域がつながること」があげられますが、同時に「音が重くなる・冷たくなる」などの短所がないとはいえません。しかし、その「精密さ」と「解像度の高さ(恐ろしいほど細かな音が聴きとれます)」がそれを補って余りあるはずです。
もっと良い音をこのスピーカーから引き出したくて「アンプ」・「CD」「フォノイコライザー」をあわてて改良してしまいましたが、このように従来の装置の「いたらない点」を見せてくれる。それこそ「モニター」の本領発揮と言うべきなのでしょう。
しかし、これはあくまでもプロ用のモニターです。歪みの大きい増幅系で未熟な音楽を再生すれば「そのあら探し」に終始しているのでは?と感じるほど無駄な色気などまったく求められない厳しさを合わせ持っています。
設置は、「MB−1」・「IB1S」共に床から40−50Cm程度持ち上げて下さい。なぜなら、位相管理が優れているため音像はツィーターとスコーカーの間(中点)に結ばれますから、その中点が耳の高さとなるような設置がベストなのです。通常のスピーカーのように床から持ち上げないで聴くなら、リスニングポイントは床に直に座った状態(胡座座り)がベストポジションになります。
残念ながら、このモニターに見合うだけの精度で録音された現代音楽は、それほど多くないと感じるのが正直なところです。逆に、現代音楽でもタイタニックのサウンドトラックのように高度な機材を用いて細心の注意を払って作製された(コストの掛かった音楽)はもちろんのこと、シャンドール・ベーグ楽団のモーツァルトなど「歴史に残るほどの名演奏」であれば、例え音源が古くても、「そのため息が出るほど高精度で細密な音楽の構造」を見事に再現してくれるのです。
誰にでもやたらお薦めできるスピーカーではありません。音楽を「好き嫌い」ではなく「善し悪し」でも聞き分けられて、その「開発コンセプトを正しく理解」することができるなら、「これほど信頼できるモニタースピーカーは他にはないと断言」しても構いません。久しぶりに「骨のある音を出す製品」に出会えて幸せでした。音質を考えれば、¥989,000(ペア)の価格もとても安いと感じられます。おおいに、「刺激」を受けました。もちろん「店頭デモ用機」を含めて、即時大量に発注したのはいうまでもないことです。