命名 オーディオ機器を「空気」を奏でる「弓」になぞらえて、「生み出される音楽がリスナーの心の琴線を震わせて欲しい」という願いを込め、「空気・呼吸・歌曲・旋律」を意味する[AIR]とバイオリンやチェロを奏でる「弓」を指す[BOW]を組み合わせ、私達の製品を[AIRBOW]と名付けました。 誕生オーディオ機器の販売に携わる私には、納得できない大きな疑問がありました。モデルチェンジを重ねる毎に製品の「性能=音質」が向上しているなら、何十年も前のオーディオ機器の音質がなぜ現在も通用するのだろう?という素朴な疑問です。 パソコンや他の家電製品、映像関連製品などのここ数十年の品質改革と価格破壊はあきれるほどなのに、オーディオだけが進歩していないのです。しかし、オーディオメーカーの技術者をはじめ、業界に携わる様々な人達の誰からも、この疑問の明確な回答は得られませんでした。 そうしている間にも内外のオーディオ機器の品質は低下を続け、とてもメーカーが提示する「高額な価格に見合う性能」があるとは考えられなくなりました。「納得がいかないまま商品を販売することは出来ない」そういう思いから、「納得できないオーディオの販売をやめる」、あるいは「納得がいくオーディオ製品を作り出す」そのいずれかの選択を迫られる時が来たのです。 ジャスト・タイミングにオーセンティック社から「当社のA−10XXを逸品館向けのオーダーメイド仕様でお作りしましょう」という願ってもない申し出がありました。当時の封鎖的なオーディオ業界において、オーディオメーカー自らが「販売店のための音作り」をするなど、考えられないほど革新的な企画でした。 オーセンティック社の全面的な協力の元にプロジェクトは開始され、誕生したアンプの音質は遙かに高価な国内・海外の最高級セパレート・アンプの音質に勝るとも劣らない素晴らしいものに仕上がったのです。 販売は順調に進み、どうせやるなら中途半端ではなく、「日本人の手で世界に通用するオーディオ・ブランドを生み出したい」という思いが日に日に強まってゆきました。機会を得てオーセンティック近藤社長に胸の内をうち明け、彼の快諾を得て[AIRBOW]は誕生したのです。 成長私達の努力が実を結び、1999年12月の全国70店舗の主要オーディオ店・部門別売上集計金額で、スピーカーの部ではAIRBOW CLT−1が第1位を獲得、プリメインアンプ部門ではLITTLE PLANETが第2位に入るという快挙を得ました。現在のAIRBOWの年間売上額を合計すれば、すでにラックスやアキュフェーズなど老舗のオーディオブランドの1 /20近くに達するほどの成長を成し遂げています。これほどの支持を得られたのは「純粋な音の良さ」のみならず、「バージョンアップ・サービスの実施」や「コンパクトで軽い設計」など、ユーザーの立場に立った製品作りを可能な限り妥協することなく貫いた結果だと感じています。同時に、これほどの急成長を遂げることが出来たのも、一重に皆様の温かい支持があってのことと深く感謝しつつ、更によりよい製品開発を目指す努力を怠らないよう、細心の注意を払いたいと気を引き締めています。 音楽性の追求音楽は「音」が「情報」となるコミュニケーションです。これを言葉に置き換えて説明すると、例えば「あそこのはし」は、「あそこの橋」、「あそこの箸」、「あそこの端」などのように読めますが、声に出す場合は「イントネーションを正確に発音」しなければ、文意が変わってしまいます。文章から文字を取り去った「イントネーションそのもの」を音楽とお考え下さい。「録音−再生」というプロセスの中で音楽に色を付けない(音楽を変化させない)ためには、「楽音のイントネーション」すなわち「音そのもの」を変化させないことが重要なのです。 AIRBOWの音決めは、次のような方法で行っています。まず、自ら考案したりモディファイをして精度を高めた録音機材を用意し「音の基準を計るためのマスターテープ」を作ります。「マスター」の録音に収録する演奏はプロに依頼し、楽器も最高クラスのものを使用します。しかし、オーディオ機器のチェックを完全にするためには「演奏のマスター」だけでは不十分なので、「楽器のチューニングの様子」・「会話」・「物音」などを収録した「音のマスター」も作製します。 機器のテストには、まずこの「音のマスター」を利用して、原音との違いを調べます。音質が要求するレベルに達したら、次に「音楽のマスター」を用いて「演奏」を聴きますが、この時には、実際に演奏を聴いた「リスナー」と、演奏を行った「プレーヤー」の双方が立ち会い、再生される音楽が元の演奏の「雰囲気を損なっていないか?」に重点を置いたヒヤリング・テストを行っています。このような綿密なテストと実験を繰り返し[AIRBOW]の音質は、厳しく吟味、検証されているのです。 デザイン・コンセプトオーディオ機器に求められるべきは、誰もが音楽を楽しめる「癖のない自然な音質」と「見飽きることのない端正なデザイン」ですが、特定のエンジニアに回路の開発から音質決定、筐体のデザインまでのすべてを一任し、絶対的な権限を与えがちな現在のメーカーのやり方では、エンジニアの思いこみが強く反映されすぎて「作り手側の独りよがりなものづくり」に陥ってしまう危険が大きいのです。 「音楽的な立場からのものづくり」という根本的な基本姿勢がなおざりにされてしまえば、製品はごく一部の機械マニアにしか通用しないはずです。事実、現在のオーディオアクセサリー関連商品などの「信じられないような価格」をみれば、オーディオが一般に受け入れられている「健康な趣味」であるとは思えません。 音の良いオーディオ機器を作ろうとするなら、音楽の専門家ではないエンジニアに「音決め」の権限を許さないようにすることが大切です。音楽を再生するシステムの音質評価は、音楽を最も良く知る「音楽家(指揮者)に委ねる」のが最も正しい方法であるからです。そのため、私達は音決めに複数の音楽家の意見を採り入れたり、電子回路技術のノウハウをオーディオ以外の業種からも柔軟に取り入れ、優れた方法は即座に採用し製品に反映するという姿勢をとっています。 装置を買い替えても、家族の誰もが音質変化に気づかないような、あるいはその価値を家族から認められないようなオーディオ機器を私達は作りたくはないのです。「作る人」と「使う人」が、断絶した関係でいるのではなく、「音楽を愛好する仲間」として一緒に成長してゆけるのが理想だと考えています。 作り手と使い手が信頼関係で結ばれるには、まず製品の価格が適正でなければいけません。加えて、一人で持ち運びが出来ないような重量やサイズの製品は失格です。子供からお年寄りまで誰もが簡単に扱うことが出来て、通常の使用で壊れるようなことがないよう、ユーザーの使いやすさに重点を絞ってデザインされた「AIRBOW製品」が、今までのオーディオ製品とパッケージングが異なるのはそのためです。 AIRBOWの目標協力関連会社の社員以外にも、多くの友人が[AIRBOW]をバックアップしてくれていますが、彼らのほとんどは金銭的な報酬を受け取ってはいません。AIRBOWというプロジェクトを通じ、「一人でも多くの音楽ファンに心のこもった音楽を聴かせてくれるオーディオ機器を届けられるなら!」、その夢の実現が彼らの唯一の報酬であり、また我々の願いなのです。プロジェクトに参加する仲間は「夢」と「情熱」で結ばれています。それは製品を購入してくださるお客様も、決して例外ではありません。 再生音楽の精度を確立させるためには、音の入り口から出口まで一貫したデザインを行いすべてを一つにまとめることが理想です。小さな箱から無限の広がりを持つ「生演奏のような音楽」が奏でられるならどれほど素晴らしいでしょう? 「シンギング・ボックス(歌う箱)」の製作。それが「AIRBOW」の目指す最終目的です。 偏った音や音楽は心の成長のバランスを崩してしまいます。多感な成長期の心と文化の健全な発展を助けるべく、私達は「コンピューターゲーム機」と同等の数の「シンギング・ボックス」を販売することを目標にしたいと考えています。 そんな大それたことは出来なくとも、このプロジェクトを通じて世界の音楽文化に貢献できれば最高に幸せです。そのためにもより一層の研究を惜しまず、良質な音とよい音楽を伝える努力を続けて行きたいと思います。良い音楽が、それを求める人たちに届くことが一番大切なことなのです。
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