結びにかえて
原子力発祥の地東海村で、地縁・血縁・原子力縁の地域で、「被曝」という言葉すら使いたくないという住民の方々の気持ちの中で、地元では、「被曝実態調査」に対して、はじめ抵抗感がなかったわけではありませんでした。そのため調査は、まず「予備調査」という形をとり、「臨界事故被害者の会」の方を対象にして始まりました。「予備調査」の結果によって、多くの人が健康障害をかかえ、不安を抱いて生活されていることが明らかになりました。そして、本調査が開始されることになったのです。「被害者の会」の代表・事務局長の強い意志とともに、私達の心を強く揺り動かしたのは、お母さん方の「ぜひ調査をやってほしい」という強い思いでした。この「調査報告書」をまとめ上げることができたのも、皆様の力があったからです。改めて、感謝を申し上げます。
私達は、最近明らかになってきたいくつかの有利な条件を、被害者救済のために最大限生かしたいと考えています。第一に、長崎原爆松谷訴訟の最高裁判決は、「爆心地から2qを超える地点で、放射線の健康影響を認めることが出きるか否か」を争点とし、原告の2.45q地点での被爆も放射線と被害との因果関係が認められたのです。すなわち、被爆による健康被害は、爆心地からの距離で決めるようなものではなく、個別具体的な健康被害の実態に目を向けることを迫っているのです。またこの2.45qの被爆線量は、厚生省・原爆医療審議会の線量評価システム=DS86に従えば20〜30ミリシーベルトとなります。このことは、JCO事故後、国が宣伝する「50ミリシーベルト以下では健康被害は出ない」をも否定しています。
次に、中性子線の危険度の評価を巡ってです。日本は従来の「ガンマ線の10倍危険」からICRP(国際放射線防護委員会)90年勧告=「ガンマ線の20倍危険」を今年4月、ようやく採用しました。であれば当然、線量評価を20倍でやり直すべきです。20倍にすれば、住民の被曝線量も2倍になります。さらに、臨界終息のために「決死隊」として水抜き作業に当たったJCO社員の被曝量は、国の評価でさえ「健康被害の出る50ミリシーベルト」を超えることになります。しかし国は、「事故が90年勧告採用前だったので線量評価をやり直すつもりはない」としています。中性子線の評価が変更になることを知りながら、わざわざ低くなる時代遅れの線量評価を採用したことは許せません。ぜひとも現行の評価方式を適用すべきです。
私たちの調査活動に対して、「調査を継続してほしい」「(国は)隠し事をしているのでデータを公開させるよう頑張ってほしい」「今回の事故の大変さ、被曝との因果関係を多くの人に知らせてほしい」「村の人みんなに調査してほしい」「放射線のこと、人体への影響を教えてほしい」といった多くの声が寄せられました。私たちは微力ながら、これら皆様の声に応えることができるよう、尽力していきたいと思っています。
報告書もくじ TOP
前へ