はじめに
 
 1999年9月30日に起こった東海村JCO臨界事故は、臨界によって発生した中性子線を四方八方に放射し、無防備の多くの住民を被曝させました。これだけ大量の人々が主に中性子線による被曝を強いられた例は世界中のどこにもありません。中性子線による被曝は非常に危険です。なぜなら、同じエネルギーであっても、ガンマ線よりも大きなダメージを人体に与えるからです。また、中性子線の人体影響に関しては、分かっていないことが多いのです。そのため、実際に起こっている症状を重視し、詳しく調査することが必要です。しかし政府・科学技術庁(現文部科学省)は、「健康被害は出ない」と一方的に決めつけ、全くいい加減な行動調査と健康診断しか行わず、住民の健康被害を闇から闇へ葬り去ろうとしています。
 私たちが「臨界事故 被曝線量・健康実態調査」を始める最大の原動力となったのは、何よりも、現に健康被害を訴えている人々が東海村とその周辺におられることであり、これら被害者全員の救済を国に迫っていく必要性を強く感じたからでした。そして科学技術庁による健康被害と被曝の過小評価を突き崩すためには、住民の側に立った綿密で具体的な健康実態調査と、それを裏打ちする被曝線量評価とが是非とも必要でした。
 私達阪南中央病院は、これまで広島・長崎原爆被爆者の健康実態調査・健康診断、在韓被爆者の渡日治療受け入れ、水俣病患者の治療受け入れ等を行ってきました。国内最大の原子力事故を前にして、医療従事者として、切り捨てられる健康被害の実態を明らかにしなければという責務から調査に取り組みました。
 昨年7月から今年2月にかけて実施した「東海臨界事故被曝線量・健康実態調査」の結果は、健康実態も被曝量も、私たちの想像を超える深刻なものでした。直接作業に携わったJCOの3人の作業員以外には事故による放射線被害は一切ないとする科技庁の公式見解を真っ向からくつがえす結果が出ました。
 
@健康被害としては、事故直後から様々な身体の異常や不調を訴える人が多数存在し、更に9ヶ月以上経過した後もこれらが継続し、その上新たな症状が出ている人も多いことがわかりました。
A被曝線量については、科学技術庁の調査より6倍以上高い被曝であったことが明らかとなりました。
B健康被害と被曝の因果関係は、被曝線量が高い人ほど健康被害が大きいことが傾向として明らかになりました。
 この報告書が、被害者に対する健康手帳の交付や長期的な健康診断、専門的な医療機関設置など、被害者の方々が求めている要求を、国に受け入れさせるための一助となれば幸いです。また、一人でも多くの皆さんがこの報告書を通じて、事故の深刻な被害の一端を知っていただくことができればと思います。
 最後に、今回の調査成功のために、調査案内や調査票の個別配布等に全力を尽くしていただいた「臨界事故被害者の会」の大泉昭一代表、大泉実成事務局長をはじめ会員の方々、お母さん方、調査にあたって貴重なご意見をいただいた相沢一正東海村村会議員、根本がんさん、そして調査にご協力いただいたすべての皆さんに、心からお礼を申し上げます。

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