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黒田杏子
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月暦八月十日まで涼し めざめれば朝涼といふ贈り物 身のどこも痛まぬ八十四歳涼し 天上くまなく八月十日蒼々と 八月十日満齢八十四歳涼し 蚤も蚊も姿を見せぬ七階に 涼新たけふといふ日を待ち兼ねて 月涼し音楽はまづブラームス 昇りくる涼しき月に赤ワイン きうり揉み茄子のしぎ焼誕生日 カルフォルニアワイン二人であけて涼しかり ちひさな住居涼しとふたり棲み 涼風に眼閉づれば荷物来る 八月十日ちちはは在りし日の杳く 山口青邨いそ夫人涼しかり 感謝して本郷の月涼しかり 眼前に十三夜月涼しかり 高田正子『黒田杏子の俳句』涼し こんなにも嬉しきひと日八月に 無名祖母クニそれは涼しき一生 |