藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


明易や夢のつづきの旅仕度

(神奈川県)高田 正子
 共感しました。自分も同じような事を体験し、同じような句を詠んだ事があるような想いにとらわれました。不思議な感じがしました。正子さん六十三歳。私も二十年前には元気でとび廻っていたのだと懐しく遠い日々の事を想いました。たった一行一七音字の世界にこめられる世界は実に深く広大なものと知りました。



時鳥たつた一人と思ひ知る

(山形県)佐治よし子
 佐治さんを想へば、何故か青邨先生ご指導の「東大ホトトギス会」の会場が浮んできます。『木の椅子』の受賞を大勢の方がよろこび祝って下さった、その方々の中に東大生の佐治さんのお顔も。よし子さんは山形では有名な方なのですよとどなたからか伺いました。この「時鳥」は凄いです。お子様方を育て、ご主人様を見送り、「山形藍生の会」を育てつつ、地域でのさまざまな社会活動にも力を注いでこられた。
 「たつた一人と思ひ知る」。それはあの鋭い時鳥の声を聴きとめた瞬間。七十二歳のこの覚悟。ともかく佐治さんの俳句人生はここから本格的にスタートですね。



葛切りを掬ふ面影もすくふ

(栃木県)半田 真理
 これも大昔のこと。京都の「鍵善」に真理ちゃんと行った事があります。大繁盛の老舗。お客が列をなしていました。夕刻からは祇園の「川上」にゆき、白衣に蝶ネクタイの松井新七さんの包丁さばきに見とれました。


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