藍生ロゴ 藍生10月 選評と鑑賞  黒田杏子


靴を縫ふミシン泰山木ひらく

(千葉県)石川 仁木
 靴職人の作業の場に出合ったのでしょうか。皮革が靴になってゆく。泰山木の木の下で。気持のよい光景。石川さんはいま俳句専念。職を辞し、これまで働いて得た資金の続く限り、すべての時間を句作に投入する。という人生計画を設計、只今その生活に専念。各種の俳句大会に応募参加。吟行を続けておられます。この句のよさは何のたくらみも無い事です。作業に打ち込むその人をじっと見つめていて、自然に成った句だと思います。
 朴の花は山中の花。泰山木は街中の花です。



会話なき在宅勤務濃紫陽花

(京都市)滝川 直広
 「藍生」も三十年余の歴史を刻みました。七十代の会員が圧倒的に多数。現役で忙しい滝川さんは五十五歳。コロナの時代。働き方は大きく変りました。実体験に裏づけられた句には存在感があります。これは在宅勤務を否定しているという句ではありません。会話なきという事実の提示を読み手がどのように受けとめるかは自由です。存在感のある句です。



真珠筏を引つぱる小舟雲の峰

(三重県)浜口久美子
 浜口さんの句は三重県志摩町でのもの。全都道府県に会員(会友)のおられる事の恵みは大きいです。小舟が真珠筏を引っぱっているなどという情景はめったに詠めません。誰にでも解る、鑑賞できる作品が、このようにいきいきと詠まれ、投稿される事はすばらしい事であると思います。


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