藍生ロゴ 藍生1月 選評と鑑賞  黒田杏子


炎ゆるとふかたち曼珠沙華純白

(神奈川県)高田 正子

 これは日中、白日の下の白曼珠沙華。私は月光の下の白曼珠沙華の白炎とも言うべきたたずまいに心を魅かれてきました。正子さんは秋日と対峙する純白の曼珠沙華の存在感に釘づけになられ、この一行を詠み上げられたのだと思います。曼珠沙華はあの花のかたち、構造そのものがミステリアス。そして白曼珠沙華の花は実に勁い光度をたたえて屹立しています。葉っぱはなくて、土中からまっすぐに立ち上ったその黄緑の茎の上にあの独特の花が安置されている。月光の白曼珠沙華を詠み継いできた私には、太陽光の下で白光白炎を放つこの白曼珠沙華に心を打たれました。高田正子さんの句として秀吟と思います。



家捨てず父祖の地捨てず月の湖

(島根県)原 真理子
 原さんと同じ境遇の方は各地に居られるでしょう。出雲松江の旧家に生まれたこの人は一人娘。東京女子大在学中の四年間を除き、松江を離れたことは無い。息子さんや娘さんは外国の大学に留学したり、外国で仕事に就いたり。世界の各地を旅することはあっても生家を守り続ける。この句の要は月の湖。言わずと知れた宍道湖。毎月のこの人の一頁連載は圧巻だと思います。松江という地方都市に暮らす一人の思索者を発見、世に出せたことを誇りに感じています。



終点に着くのが不安稲光

(新潟県)熊谷 一彦
 公務員の熊谷さんはあちこち転勤を重ねられ、現在は新潟県に。たしか大昔、「新潟日報」俳壇に投稿されたことが「藍生」ご参加のきっかけ。この句、不思議なリアリティをたたえていて、印象深いですね。


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