aoilogo2012年9月藍生主宰句
大文字に独り
黒田杏子


あをあをと梅雨蜩の高野昏れ
送り梅雨高野の星のまたたける
四方より梅雨蜩の午前四時
炎天や伽藍をめぐる蝶の数
蝶のかほ玉蟲のかほ高野山
父の手紙父への手紙束涼し
夕顔の門おぢいさんおばあさん
後山の木々に熟れしと桃一荷
甲斐の桃紀州の桃と夜の匂ひ
夕焼の沖へ沖へと行つたまゝ
夕焼けて夕焼けてひとみな遠し
還り来よ襤褸のごとく夕焼けて
なぐさめて賞めて讃へて梅雨明くる
 寂聴先生 九十歳
出離者のもの書く机蛍籠
出離者の独り大文字に独り


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