藍生ロゴ 藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


普段着の妻の背中や七日粥

(神奈川県)ジョニー平塚

 七種の日の朝、明るい光の射す厨に立っている妻。そのいきいきと甲斐甲斐しい背中を見つめる。普段着の妻の背中、この表現に信頼と友情のようなものが感じられる。子供たちも大きくなり、共に七種の日を迎えた歳月もかなり長くなった。五十代半ばの夫の詠み上げた一行に家族の歴史が浮かび上る。



轆轤場の窓の氷柱を供へけり

(石川県)橋本 薫
 氷柱を亡き人に供える。その人はかつて轆轤場の主であった。二人三脚で窯場を営んできた夫婦。そのひとりが早々とこの世を発ってしまった。つれあいの死にまさる悲傷はないと言われるが、橋本家の場合はたった二人だけの暮らし。時を経て、このような句を詠まれたことに感銘を覚える。万葉集の中の一首にも通う存在感のある作品である。



顧みしとき湖が見え春が見え

(滋賀県)永井 雪狼
 雪狼さんも傘寿を越えられた。淡海を詠んだ句は多いし、毎月のように多くの人が詠んでいる。人生という長い時間をたっぷりと湛え、そこにこのような想いを表出した句はめったにない。俳句形式の恵みを生かし切った作品として心に沁みる。春が見え、この座五に雪狼俳句の深化を見る。秀吟である。


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