藍生ロゴ藍生10月 選評と鑑賞  黒田杏子


百三歳目覚めすこしく涼しかり

(東京都)羽生 瑞枝

 「藍生」にご参加下さる以前から、雑誌や「NHK俳壇」などで羽生さんの作品にはたびたび出合って参りました。八十代から百歳台の今日にいたるまで、どれだけの羽生作品を選び、添削してきたことでしょう。三十七歳年長の句友の作品を毎月拝見できる幸せに心から感謝しております。東京下町のお寺を守ってこられた羽生さんは、大勢のお子さまを立派に育てあげられ、同年のご住職でいらっしゃったご主人さまの長逝を機に、短歌と俳句をはじめられたのです。文字どおり八十歳、傘寿からのスタートで、NHK学園の通信講座その他で大いに学ばれ、歌集や句集を刊行、NHK学園の生涯学習賞その他を何度も受けておられます。みづえ幼稚園の園長さんもつとめられ、たしか真言宗豊山派の婦人新聞の編集長も歴任されたスーパーレデイー。この句を巻頭に頂けたことを私の誇りと致します。



今の世の良し悪しは措き梅雨籠

(千葉県)冨澤 統一郎
 「藍生集」の選評と鑑賞は、ずっと「である調」で書いてきましたが、今号に限り、巻頭の羽生さん一〇三歳と、富澤さん九八歳の二席までの作品二句に対しては、「です・ます」調にさせて頂いております。富澤さんの作品はいつも悠々としておられるところが特徴であり、個性だと思います。数年前、坂東吟行で、お近くまで伺いましたので、お宅にもお邪魔をして、句会にもご出席頂きました。あのみどりあふれる、ひろびろとしたお屋敷の書斎で、お好きな本を読み、カメラの手入れなどを愉しみながらの梅雨籠。すばらしいことと思われます。



生き延びて鎮魂一句敗戦忌
(福岡県)重松 善之
 軍医でいらした重松さん。この一行は作者の人生がそっくり十七音字に凝縮しているようにも思われ、尊い一句となっている。


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