藍生ロゴ藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


終戦日龍馬の知らぬこと多し
        
(高知県)西田 泰之
 この句にはすこし説明が要るかも知れない。龍馬記念館を訪れ、坂本龍馬という日本人のひとりの生涯を通して、当時の日本をも知り、現在の日本および世界にもこころの及んだ若者の句なのである。浜崎浜子さんの指導によって、高知には続々と活気あふれる男性会員が増えている。西田さんはその中でもより若手グループに属し二十九歳である。終戦の年など知る由もない。しかし、現在に龍馬が生きていたら、何を考えどう行動しただろうと思う。いや、さすがの龍馬も知らぬこと、想いもよらぬこと、とても考えの及ばぬ状況であるよ、現在は。とでも言い切っているようで面白い。記念館などに吟行すると、その展示物と季語を並べて読む手法が多いが、西田青年のこの句は終戦日という季語をバネに、大きく現在を見据えている。句作をはじめたばかりでの秀作である。



秋蝶のしづけさをふりかへりけり
(東京都)栗島 弘
 この句には説明は要らない。大人の男性の、詩心あふれる一行。単に寂かな句ではない。つややかな趣きを湛えている佳吟だ。



白丁花ここまで生きて母に似し
(埼玉県)古橋 淑子
 この作者の句歴もすでにかなりのものである。その歳月の中で、さまざまにとり組んできた句作の試みが、最近着実に実を結びはじめてきている。この句、中七・下五の表現が実にあざやかに決まっている。白丁花もそのときの作者自身にとって、リアリテイのあるものであったから過不足がないのである。



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